コロナ危機、アメリカ「3兆円規模の教育政策」に不満が噴出するワケ

日本は何を学ぶことができるか
畠山 勝太 プロフィール

高等教育支援はどうなっているか

次にCARESにおける高等教育支援を見ていこう。

オバマ政権の緊急支援では高等教育支援に対して254.6億ドルの支援がなされたが、トランプ政権はこれまでの所、142.5億ドルの支援しかしていない。これは、高学歴者の特に女性に民主党の支持者が多いことが影響してか、共和党の州知事が州立大学に対して敵対的な予算を組みがちなこととも同じ流れにある。

しかし、新型コロナ危機の大学への影響は金融危機のそれとは比較にならないほど大きなものである。これを理解するために、具体例として私が在籍するミシガン州立大学(MSU)の財政を見てみよう。

米国というと、アイビーリーグやスタンフォ―ド・シカゴ大学のように著名な私立大学が多いことから、私立大学に在籍する学生の方が多いように思いがちだが、大学生の約4分の3が私立大学に在籍する日本と異なり、米国は学生の約4分の3が公立大学に在籍しているので、MSUの財政状況は米国の高等教育財政事情を理解する端緒としては悪くない。

MSUの収入の約3分の1は授業料から来ており、その額は約8.7億ドルとなる。しかし、ミシガン州民の授業料約15,000ドルに、学生数約5万人をかけても、約7.5億ドルと20%弱も足りない。

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この現象を理解するには2つの米国大学事情を知る必要がある。

一つは、額面の授業料と実際の授業料に大きな隔たりがあるという点である。なぜなら、大学が様々な奨学金を提供しており、数多くの学生がこの恩恵に預かっているからだ。

MSUは州内2番手の大学であるが、一番手のミシガン大学に合格したもののMSUからの奨学金が手厚いのでMSUに進学する学生も少なからずいる程だ。

奨学金に関する詳細なデータが手に入らないのでおおよその推測になるが、多くの州立大学の実際の授業料は、日本の国公立大学より高いかなという程度で、物価差を考慮すれば日本の大学の平均の学費と同程度であろう。

 

そうなると、授業料収入と計算の差がさらに広がってしまうが、ここでもう一つの事情が登場する。それは留学生の存在だ。

MSUの留学生の授業料は約41000ドルと、額面価格だけでも州民授業料の約3倍にもなる。さらに、州民と異なりその多くは奨学金を受けていないので、額面価格≒実際の価格となる。この、額面通りの価格を払ってくれる留学生の存在は米国の大学機関にとって無視できない存在である。

米国と比較した日本の大学財政の貧しさは度々話題となるが、寄付や政府からの助成金だけでなく、日本人学生の3倍もの授業料を払ってでも日本の大学で学びたいという留学生を焚きつけられるかが実は大きな課題である。

そして、留学生の中でも中国人の存在は大きい。米国の留学生の3分の1以上は中国人であり、R1研究大学であるMSUにおいては留学生の実に3分の2近くが中国人である。

しかし、新型コロナを中国病と呼んだ大統領のお陰もあり、東アジア系に対する差別感情が顕在化した。何の因果か今学期は偶然中国人留学生に関する質的研究を学内で行っていたため、このテーマで学会発表を申し込んだ程度には被差別に関するデータを集められた。

米国の大学が打ち出の小槌である中国人留学生を失うと、その衝撃は金融危機とはまったく比較にならないものとなる。