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その昔、猫には「にゃん」でも「にゃーん」でもない別の鳴き声があった

擬音の不思議

「にゃん」は江戸時代以降から

私たち現代人にとって、最もおきまりの猫の声といえば「にゃんにゃん」だろう。童謡『犬のおまわりさん』でも、犬の「わんわん」に対して、猫は「にゃんにゃん」と鳴いている。あるいは子猫の鳴き声としてよく使われる「にゃあにゃあ」だろうか。

しかし、こう表現するようになったのは実は江戸時代以降だという。ではそれまでは猫の鳴き声はどのように聞かれていたのか。鎌倉時代の語源辞書『名語記』にはこんな記述がある。

問い 猫というけだものは『ねう』と鳴くのですが、なぜですか?

答え 『ねえむ』を結合させれば『ねう』となります。『ね』は、『鼠』の『ね』、『えむ』は、『得む(=得たい)』の意味です。だから『ねう』は、『鼠を得たい』と鳴いているのです

かなりこじつけめいた説明だが、注目すべきは、猫の声が「ねう」であることだ。鎌倉時代の人には、猫は「ねうねう」と鳴いているように聞こえていたのである。

この「ねうねう」の鳴き声は平安時代まで遡る。『源氏物語』にはこんな話がある。

人妻(女三宮)への思いを断ち切れずに縁側でもの思いにふけっている男(柏木)のもとに猫がやってきた。猫が「ねうねう」と鳴くので、柏木は「積極的だなあ」と苦笑いしたという。

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なぜ、苦笑いしたかというと「ねうねう」を「寝む寝む(=寝よう寝よう)」と聞いたからだ。「う」と記されている部分は、平安時代にあっては、意志の助動詞「む」に通じるような「ン」の音であったと推測される。猫の鳴き声が艶っぽい使われ方をしていたことがわかる。

実は「ねこ」という呼び名も、この「ねうねう」という鳴き声が由来になっている。鳴き声の「ね」に、可愛いものを表す接尾辞「こ」がついてできた名前だといわれているのだ。「ひよひよ」鳴く可愛い鶏を「ひよこ」と呼ぶのと同じ理屈である。

昔の日本人にとって、「ねうねう」と鳴く可愛い生きものが猫だったのである。(羽)