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認知症の親が死を望んだならば…安楽死をめぐる家族の「厳しい選択」

小説『終の盟約』超高齢化社会のリアル

ああはなりたくないな…

―新著の『終の盟約』は「安楽死」がテーマのミステリー長編です。主役は医師の父を持つ兄弟(兄は医師、弟は弁護士)。85歳の父・藤枝久が認知症を発症していく描写から始まります。

気がつけば私も63歳。自分の死について考えるようになりました。将来認知症を患うとしたら、それが私のいちばんの恐怖であり、真剣に考え続けています。また、認知症を始めとする医療やケアの描写は、私が周辺で見聞きした話がベースになっています。

―ショッキングなのは、久が入浴する嫁(長男・輝彦の妻)を覗き見する冒頭のシーン。さらに久の部屋には、妻に似た裸婦と男女の性交を描いた絵がたくさん残されていました。

認知症の専門医に聞くと、色に走る、糞便(弄便)に走るケースはすごく多いそうです。嫁の裸を覗いた人の話を身近で聞いたこともあります。ボケてしまうとプライドや矜持はなくなり、自分で自分をコントロールできなくなる。久のような教養ある紳士でもどんな行動を起こすかわからなくなってしまうんですね。

 

人間は、まっさらな状態で誕生します。やがて感情が芽生え言葉を覚え、学習で知識を身につけ、経験を積みながら成長を続けます。そしてある時期を境に逆戻りが始まり、最終的に赤子に還る。それが人間の典型的な一生です。

実体験としては、私の父方の祖母は93歳で亡くなりましたが、最晩年は寝たきりになり、母が在宅介護しました。当時は文句ひとつ言わなかったけれど、今89歳になった母は「ああはなりたくないな……」と言いますね。

肉親である私は、母がボケても生きていて欲しいし、面倒を見るつもりです。ただ本人は、「自分と同じ体験を子供にはさせたくない」と思っているようです。誰しも、世代が違っても、この思いは同じでしょう。