2020.05.29

知って得するトリビア…徳川政権が巨額の赤字を抱えた「失敗の本質」

おもしろい経済の話(3)
長沼 伸一郎 プロフィール

農業が商工業に負ける理由

ではなぜ農業経済というものはそんなに無防備で脆弱なのだろうか。結論を一言で言えば、それは産業としての機動力の差にある。

物の価格を決めているのは、言うまでもなく需要と供給の関係である。例えばある品物の需要が爆発的に沸き起こったにもかかわらず、それを下回る供給しかなされない場合には、それは希少価値によって非常な高値がつく。逆に売れ残りが出るほど大量の供給がなされて需要をあまりに上回ると、品物は市場でだぶついて値崩れを起こしてしまう。

農産物というものは、明らかにこの点に弱点を抱えているのである。では一般的に言って、価格面で最も堅固な防衛能力を持っているものとはどんなものだろうか。

まずこの点で一番安定したものとは、言うまでもなく需要も供給も一定のまま変化しないという性格を持ったものである。とにかく供給が一定でありさえすれば、それは一応安定した防衛能力を持っており、特に貴金属や土地などというものは、人間がどう努力してもなかなか量を増やせないという点で、その代表格である。

 

一方それに比べると、工業製品などというものはおよそそれとは正反対の性格を持っている。それを作れば儲かるということになると、我も我もと工場を建て始め、煙突からもくもく煙を吐いて大量の製品がベルトコンベアーから奔流のように流れ出て来ることになる。

そういった意味では、工業製品というものはすぐに過剰供給に陥って値崩れの危険に晒されやすく、あまり有利な立場にあるとは言えない代物のはずなのである。それなのになぜ工業は不利な産業として衰退しないのだろうか。それは経済におけるもう一つの側面としての需要の面について農業と対比させるとはっきりする。

農業というものは、他の産業に比べて需要が本来あまり伸びないという特性を持っている。例えば収入が2倍になったからといって、人々はジャガイモやニンジンをいままでの2倍食べるようになるだろうか。農業の弱点というのは、実にここである。

人間の胃袋の大きさに限度があって、どう努力したところで人間は1日1トンのジャガイモを食べるようにはならないという現実が、その需要を固定的なものにしているのである。

それでいて、農産物というものは作付面積を増やしたり効率を上げたりすることによって、供給はゆっくりとであるが増やすことができる。また他の製品分野なら、業者が供給を故意に減らして値段を釣り上げるなどということもできないではないが、食料不足の時に農民が故意に作物の収穫を減らして値段を暴騰させるなどということは、それが生存に欠かせないものだけに極めて難しい。

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