誕生秘話!「ディープラーニング」を成功に導いた「信じつづける」力

冬の時代を耐え抜いた先駆者の熱き想い

第3次ともいわれる現在の人工知能ブームでは、以前には現実的ではなかった新たなキーワードが多数、登場しています。

シンギュラリティ、ビッグデータ、自動運転……。

なかでも、その実体がイメージしづらく、「難しそう!」という印象があるのが、「ディープラーニング」ではないでしょうか?

ところが、ディープラーニングの本質は、高校までに学ぶ範囲の数学で十分に理解できるというのです!

ディープラーニングはいったい、どのようにして誕生したのでしょうか? それを実現させた、先駆者たちの信念とは?

最新刊『高校数学からはじめるディープラーニング 初歩からわかる人工知能が働くしくみ』が好評の金丸隆志さんに解説していただきました。

はじまりは1940年代

現在、スマートフォンによる音声認識や自動車の自動運転技術などの話題で人工知能(Artificial Intelligence, AI)について耳にする機会が増えており、人工知能ブームと言ってよい状況が続いています。

それとともに、人工知能を支える要素技術の一つである「ディープラーニング(深層学習)」という言葉も浸透しつつあります。

ディープラーニングとは、人間の脳でおこなわれている情報処理の手法を工学的に応用する「ニューラルネットワーク」という学問分野で使われる手法の1つです。脳に学んだ知見を取り入れた情報処理によって、音声認識や画像認識の性能が飛躍的に向上したため、ディープラーニングが注目を集めるようになった経緯があります。

ディープラーニングの性能が、広く知られるようになったのは2010年前後のことです。そのため、ディープラーニングは21世紀に入ってから発展した技術だと考えている人が多いかもしれません。

しかし、ニューラルネットワークの研究は1940年代から始まっており、ディープラーニングはその延長線上にある技術だと言えます。

ニューラルネットワークは、現代にいたるまでにブームとその沈静化を二度、経験しています。ブーム時にはたくさんの研究者が参入しましたが、ブームが去った後の「冬の時代」には、分野を変更する研究者もいました。

そのような冬の時代にあっても、脳に学んだ情報処理の可能性を信じつづけた研究者たちの地道な探究によって、現在のディープラーニングは生まれたのです。

本稿では、ディープラーニングにいたるニューラルネットワークの歴史を紹介します。

【写真】可能性を信じた研究者たちによって生まれた
  現在のディープラーニングは、可能性を信じつづけた研究者たちの地道な探究によって生まれた photo by gettyimages

ヒトの神経細胞をモデルに発展

ニューラルネットワークとは、人間を含む生物の脳を構成する要素である「神経細胞(ニューロン)」を、数学やコンピュータで取り扱えるようにモデル化し、それを多数組み合わせたネットワークモデルが、どのような性質や機能をもつかを探究する学問です。

【図】ニューロンのモデル
  ニューロンによる情報伝達のイメージ・モデル。上が生体の神経細胞(ニューロン)の場合で、下は生体をモデル化した人工ニューロンの場合(『高校数学からはじめるディープラーニング』より一部改変した図)

1943年に、神経生理学者のマカロックと数学者のピッツが発表したニューロンのモデルが、最初期のニューラルネットワークです。彼らは、単体のニューロンだけでなく、複数のニューロンを組み合わせたモデルまでを考え、それが、AND素子やOR素子などの論理回路を構成することができることを示しました。

最もかんたんなAND素子とOR素子は、0か1かのどちらかの値をとる入力2つを受け取り、やはり0か1のどちらかの値を1つ出力するものです。2つの入力がともに1のときに1を出力するのがAND素子、2つの入力のどちらかが1のときに1を出力するのがOR素子で、これらは日本語の「なおかつ」および「または」のはたらきに相当します。

これら論理回路は、現代のコンピュータを構成するために不可欠な要素ですから、ニューロンの組み合わせによって、コンピュータと同等の機械を構成できることが示されたのです。