コロナ不安で「権威に従い、他人を叩きたがる人」が増えた深い理由

進化心理学から説明する「体制順応主義」
Ore Chang プロフィール

感染症予防と宗教の関係

さて、感染症と体制順応主義に話を戻そう。

進化人類学者の推定によれば、人類史において感染症は、戦争、感染症以外の病気、自然災害を合わせた数よりも――そう、それ以外の全てよりも――はるかに多くの命を奪ってきた。*6

先史時代には、ワクチンも医療技術もなかったし、現代より不潔な人々も多かったし、COVID-19よりもはるかに危険な病原菌・ウイルスが、封じ込められることなく平然と存在していた。しかも人々は、それらが感染症という生物学的現象であることすら理解できていなかった。

これは、集住する生き物であるサピエンスにとっては致命的なリスクであった。現代に生きる我々は全員が、例外的に病に強かった(=淘汰されなかった)祖先の子孫である。かつての人類は我々よりもはるかに伝染病に弱かった可能性が高い。

筆者は先ほど「迷信」について述べたが、しかしあらゆる文化における宗教的なシークエンスには、感染症予防や感染対策に有効なものが多く含まれていることが知られている。結論を先取りしていえば、「宗教的権威・規範に従いたい」という人間特有の心理も、感染症を回避するための “進化の産物” なのではないか、と進化心理学者は考えているのだ。

キリスト教であれ、イスラム教であれ、ユダヤ教であれ、ヒンドゥー教であれ、仏教であれ、神道であれ、多くの宗教的規範は〈神聖さ〉という概念に裏付けられており、そしてこの〈神聖さ〉は〈清潔さ〉と強くリンクしている

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われわれ人類は長らく、宗教的規範に生活スタイル全般を小煩く指示されてきた。──手を洗いなさい、体を清めなさい、肉を食べてはいけません、食器や調理器具は熱湯に沈めなさい、武器などの戦利品は火にかけてから使いなさい、死体はすみやかに埋葬/火葬しなさい、○○人は不潔なので関わってはいけません──こうした細々とした規範を集めたものを、聖典とする宗教も珍しくない。

重要なのは、これらのルールの遵守者たちは、ほとんどの場合、「なぜそうするのか」理解していなかったということだ。強いて言えば、彼らは「なぜ」と問われたとき、「神の怒り」や「悪魔の呪い」を避けることを理由に挙げた。おそらく、「祟り」や「呪い」の多くは病にかかった人をモチーフとしている。

梅毒の症状を例にあげれば、膿や赤い発疹が全身に現れ、皮膚や筋肉や骨に腫瘍ができ、鼻などの肉が削げ落ち、運動失調、けいれん、失明、痴呆などの症状を経て死に至る。目に見えぬ病原菌やウイルスの知識を持たない人々からすれば、それはまさに「祟り」や「呪い」が顕現したものに他ならなかった。

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