コロナ不安で「権威に従い、他人を叩きたがる人」が増えた深い理由

進化心理学から説明する「体制順応主義」
Ore Chang プロフィール

「理由」は大事ではない

人類が長きにわたって進化してきた環境である先史時代の狩猟採集社会にも、「規範」が存在した。規範とは要するに「how to(ハウツー)」のことであり、無数の「ハウツー(=○○の仕方)」が代々受け継がれることで、そこに「文化」が形成される(これをミーム/memeとも呼ぶ)。

先史時代の人々が受け継いだこうした「ハウツー」は、たいてい “合理的な理解” の伴っていない、いわゆる「村の言い伝え」とか「おばあちゃんの知恵」のようなものだった。過去にたまたま上手くいった「やり方」(たとえば火の起こし方)が、それが上手くいく科学的な理由が理解されることなく、ただ子孫へと伝達されていった。*4

現代人であるわたしたちにとっても、「規範やマナーに従う」という判断は、意識的な熟考にもとづく理性的な意思決定というよりは、直観的なヒューリスティックスに導かれたものであることに注意してほしい。

チンパンジーがポリオにかかった個体を群れから追い出すとき、「なぜそうするのか」という生物学的理由を知っている必要はない。同様に、ヒトも自らの行動の生物学的な理由を逐一理解している必要はなく、大抵の場合は「何となくそうしたくなる」という心理がただ働くだけなのだ。

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人類のあらゆる文化には、合理的な理由が説明できない信念、つまり「迷信」が混入している。いまなお世界の一部に現存する狩猟採集民族において、伝統的な民間療法をかたくなに実行する人々は、「なぜその方法が効く(と考える)のか」を説明できる医学的、論理的な知識を持ち合わせているわけではない。

こうした迷信を突き詰め体系化したものが宗教である。宗教の特徴とは “なぜ” を問いかけることを許さないことにある。信仰の世界において、理由は問うものではなく与えられるものであり、そうして与えられる理由はしばしば「神々だけがそのわけを知っている」などと、説明の体を成していない。*5

──しかし一方で、逆説的であるが、「理由がよく分からずとも従う」ことこそが、人類が進化させた文化的知性の核心でもあるのだ。

ほとんどの人間は、マイクロ波で水分子が振動することでモノが熱せられるメカニズムをきちんと理解していないはずだが、電子レンジで食べ物を温めることができる。規範=ハウツーにただ従うことで、人類の知的活動の成果を享受できている。

発明者自身やプロフェッショナルにすら “理由” が理解されていない技術すらままある。たとえば、医療現場で毎日必ず用いられている麻酔技術の核心的メカニズムは、いまだに解明されていない。

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