にわかに真実味を帯びて急浮上してきた「9月入学」案。教育ジャーナリストのおおたとしまささんは「9月入学」議論をどのように受け止めたのか。テーマを3つに分けてお届けする。まずは拙速に9月入学を実施したときの問題点を具体的に提示してもらおう。

影響大きく論点整理すら困難

休校期間が長引いていることへの対策として、学校の始業や入学を9月に移行する、いわゆる「9月入学」案がにわかに浮上している。まともに授業ができていない本年度4月からの各学校での取り組みをリセットし、9月に1学期を始めようという案である。

GWを前にして、私も複数のメディアから意見を聞かれた。その時点で「あまりに影響範囲が大きすぎてにわかには論点整理すらできず、論理的に是非を表明することは難しい。ただし直感的には、たった4カ月で準備するにはちょっと無理があると思う」と述べた。

ところが、である。これに対して著名人らが前向きな意見を表明したことで一気に風が吹く。野党はワーキングチームを結成し、都道府県知事の会でも賛意が目立った。これが全国紙でも連日大きく取り上げられることで世論も動く。

日刊スポーツが4月29日にインターネット上で行った緊急アンケートでは、回答者918人のうち賛成約41%、反対約55%。特に10代以下では約77%が反対だった。しかし5月に入ってから中国新聞、スポーツ報知、河北新報が発表したアンケート結果ではいずれも6割近くが賛成だった。

ただし、賛成の理由を見てみると、緊急時対応策としての是非判断だけでなく、「子どもの留学時にスムーズに入学できる」「インフルエンザや大雪の心配をしなくて済む」など「9月入学」という制度そのものへの賛意が含まれてしまっていることがわかる。

9月入学は「入試をずらす」だけではない

また、もしかしたら大学入試の時期をずらすだけだと勘違いしているひとも含まれているかもしれない。しかし文脈的に考えて、いま検討されているのは、小学校から大学までのすべての学校の本年度を半年間延長し、2021年度の始業・入学を9月にし、かつ、今後ずっと9月をすべての学校の年度始まりにするということだ。

高校・大学の入試は教育の中でも特に気になる点だ Photo by iStock

世論の高まりを見たのだろう。文科相も選択肢の一つであるとの認識を示し、4月30日、首相は導入に向けた論点整理を関係府省の事務次官に指示した。6月上旬には方向性が発表される見込み。そのことを告げるYahoo!ニュース記事に私は取り急ぎ以下のようにコメントした。

これは普通なら、国家の総力をかけても準備に数年を要する大プロジェクト。社会への影響力は大学入試改革の何十倍にもおよぶ。それがこの大混乱期にできるのか?
これをきっかけに数年後を見据えた変更の検討を開始するのならわかるが、いま無理にやろうとすれば、文科省も学校の先生たちもそのための対応に追われて、ますます子どもたちが置き去りにされる可能性だってある。
たとえるなら、川の堤防が決壊しそうになって村人総出で土嚢を積んでいるところに「ちょうどいい。洪水対策で上流にダムを造るから全員集合!」と号令をかけるようなもの。
今年の学習の遅れをどう取り戻すか、受験生をどう救済するかということと、日本の学校制度を9月始まりにするということは分けて考えたほうがいい。

このコメントに込めた意味を、本稿で補足する。