世紀の大発見「ミャンマー琥珀恐竜」の研究が大ピンチに陥った事情

若き恐竜オタク博士に米国から非難?
安田 峰俊 プロフィール

2020年4月21日、アメリカの著名な学術組織であるSVP(Society of Vertebrate Paleontology:脊椎動物古生物学協会)が、「紛争地域の化石と化石に基づく科学データの再現性」と題したレターを発表。

琥珀化石の取り扱いについての懸念点をかなり厳しく指摘したのである。

アメリカのSVP(脊椎動物古生物学協会)が今回発表したレター

ミャンマー奥地の市場で琥珀を購入

EVAをはじめとした中生代のさまざまな生物の化石を含んだ琥珀が出土するのは、ミャンマー東北部のカチン州バモー郊外の山岳地帯だ。

この地域は長年にわたり少数民族カチン人の軍閥(カチン独立軍:KIA)とミャンマーの中央政府軍が衝突を繰り返してきたが、2011年ごろから白亜紀の良質な琥珀が出ることが広く知られはじめた。

エーヤワディー川(旧称イラワジ川)からバモーをのぞむ Photo by Getty Images

邢立達は2014年、昆虫化石の愛好家である友人を通じてトカゲの化石が入ったミャンマー産の琥珀の存在を知り、翌年からミャンマーの琥珀市場へ調査に通うようになった。バモー付近には山奥で採掘された琥珀を取り扱う宝石市場がある。そこで琥珀をまとめて購入するのである。

バモーの市場。段ボール箱に書かれた漢字からも、中国との深い関係が見て取れる Photo by Getty Images

私が以前に邢立達本人から聞いたところでは「毎回、たとえ不要な琥珀でも多少は必ず買うことが、商人との関係を維持するコツ」だったという。2016年のEVAの発見も、顔見知りの商人から「植物が入った琥珀がある」と声をかけられたことが契機だった。EVAの尾の羽毛は、素人目には植物に見えたのだ。

邢立達(筆者撮影)

こうして入手した琥珀の年代は、琥珀内部に他の化石と一緒に閉じ込められている既知の虫や植物の化石を参考にしたり、琥珀に付着したジルコン(ヒヤシンス鉱)を分析したりすることで確定される。

ちなみにEVAの場合は、同じ琥珀のなかに飲み込まれていた白亜紀前期のアリが年代確定の決め手になった。

中国人研究者の独壇場

琥珀が産出されるミャンマー東北部は、中国との関係が深く、古くは明朝末期から漢民族が移住している(その子孫はミャンマー国内で「コーカン族」という少数民族になっている)。

 

また、国共内戦末期に国民党軍の一部がミャンマー側に越境して拠点を作ったり(現在は消滅)、文化大革命中に紅衛兵の一部がミャンマーの共産ゲリラに加入した歴史もあって、現地のワ族やカチン族といった他の少数民族も多くは中国の影響を受けている。

ゆえに、ミャンマー東北部は現在もなお、ネピドーの中央政府よりも中国とのつながりが強い。特にバモー近郊のような少数民族軍閥の支配地域では中国語が共通語になっており、通貨も人民元が使われている。