「仕方ない」と笑う母を見て、
哀しくなった夜

祖母がアイさんに対してなんと言ったのか、母はどこまで理解しているのだろう。その日の夜、風呂からあがったぼくは、お祈りをしている母のもとを訪れ、伺うようにその横顔を見つめた。

すると母は、いつものように「どうしたの?」と笑う。

ぼくが手話混じりに「アイさん、もううちには来られないの……?」と尋ねると、母は諦めたように手を動かした。

――仕方ないよね。

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一体なにが仕方ないのだろう。これだけは断言できるけれど、アイさんは母を油断させて勧誘するすきを狙っていたわけではない。むしろ、ふたりの間には宗教の“し”の字も出なかった。同じ年頃の子どもを持つ母親同士、くだらないことを話して笑っていただけなのだ。

それなのに、なにが仕方ないのだろう。

きっとぼくは、いまにも泣き出しそうな顔をしていたに違いない。母は、そんなぼくの手をぎゅっと握りしめる。

――お母さんが悪いの。生まれる前に悪いことをしてきたから。だから、仕方ないんだよ。

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胸が潰れる想いがした。母は笑っていたけれど、とても哀しそうだった。そして彼女は、ぼくが見ている前で、またお祈りを続けた。

【次回は5月20日公開予定です】

五十嵐大さん連載「祖母の宗教とぼく」今までの連載はこちら