金正恩「最新写真」が物語る、北朝鮮の異変と消えない健康不安

「死亡説」「危篤説」の真相は…?
牧野 愛博 プロフィール

国内の動揺を抑える必要があった

同じように、金正恩氏らがひな壇にいるとき、上方からひな壇や式典参加者らを一緒に俯瞰するような写真も掲載された。朝鮮中央テレビの映像には、工場内の建物の屋上でカメラを構える関係者の姿が映り込んでいた。北朝鮮では通常、最高指導者の保安のため、狙撃される可能性がある上方からの撮影が許可されることはめったにない。これも、前述したことと同様、「金正恩氏が5月1日に順川にいた」ということを強調したい意図がありそうだ。

朝鮮中央通信
 

5月1日はメーデー。北朝鮮では労働者の祝日として公休日になっている。これまでもメーデーでは記念行事がしばしば行われてきたが、「1号行事」と呼ばれる最高指導者が出席する記念行事はほとんど行われてこなかった。めぼしいところでは、1960年代半ば、唯一指導体系を確立した直後に金日成(キム・イルソン)主席が出席して、平壌の金日成広場でパレードを行った程度だ。

確かに順川リン酸肥料工場は、正恩氏が1月にも訪れた重要施設ではある。北朝鮮では「肥料1キロでコメ1キロ」という言葉があるくらい、肥料は重要な物資だ。新型コロナの感染問題によって、今年に入って北朝鮮が中国から輸入した肥料はわずか4000トン程度にとどまっているという未確認情報もある。その意味で、竣工式に正恩氏が出席しても不自然ではない。

しかし、5月1日に竣工式に出る余裕があるのなら、金正恩氏が正統性の唯一の根拠としている「白頭山血統」を誇示するため、4月15日の金日成主席生誕記念日に金主席らの遺体が安置されている錦繡山(クムスサン)太陽宮殿を参拝することや、金主席が創設した朝鮮人民革命軍創建記念日にあたる4月25日に記念行事を行うことの方がより重要だろう。

日米韓はこの間、金正恩氏の動静を確認する決定的な写真や証言は入手していなかった模様だ。状況証拠から推測するしかないため、限界が伴うが、やはり健康状態が回復したために、急ぎ適当な式典を選んで出席したとみる方が合理的だと思われる。北朝鮮国内でも最近、脱北者などが流していた「死亡説」「植物人間説」などが入り込み、平壌や地方都市で出回っていた。一部に広がる動揺を抑える必要に迫られていたとみるべきだろう。