「コロナ疲れ」はこれで解消、旅気分を味わえる小説『流人道中記』

著者の浅田次郎にインタビュー
浅田 次郎 プロフィール

では、法を犯さなければ何をしてもいいのか。法が全能とはいえないのではないか……。

まして玄蕃が生きたのは、三権分立もない、軍事政権である幕府が生殺与奪を決定する。そんな社会で、玄蕃は権力が定める「法」よりも、人間社会が本来持つはずの「礼」こそが重要だと考える。そして、武士という存在の意義も、武士社会の変化の必要性も、「礼」を自らの言動で示し、問い直していく。

―旅の終わり、玄蕃の独白とともに、彼が犯したという「罪」の謎が解きあかされます。その中で「武士とはなにか」と乙次郎に投げかけ思いを伝える玄蕃の姿に、熱いものがこみ上げてきます。

英雄とは、巨悪を倒した人間ではなく、変革をなした人のこと。玄蕃は武士という立場に誇りと責任を持つからこそ、変革のため行動できた。私たちの祖先には、そうして悪しき構造を変え、閉塞した時代を打ち破った人間がいた。その物語を描くのが、時代小説の醍醐味です。

いま、新型コロナウイルスという災禍に直面するなか、何をどう変えるべきか皆が真剣に考えた先に、英雄が現れるのではないかと期待しています。バブル崩壊後の不景気でも、東日本大震災でも変われなかった日本は今度こそ変わるのではないか。期待を込めて、そう思います。(取材・文/伊藤達也)

 
『流人道中記』上・下 中央公論新社/各1700円

『週刊現代』2020年5月2・9日号より