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朝起きたら、妻が台所で突然死していた日の話

その日から、全てが虚無になった

あまりの惨状に…

「昨年2月の寒い朝に、妻は65歳で突然亡くなりました。私たちは旅行好きで、前日の晩も仙台への旅行計画をたてて、『ホテルの予約がとれたよ』と妻に話してから床に就きました。それが最後の言葉になるとは……」

橋本雅史さん(69歳、仮名)は、55歳のときに一人息子が独立し、以後13年間、妻の典子さんと二人暮らしをしてきた。典子さんは亡くなる3年前に人工股関節を入れる手術を行っていたため階段を使えず、子ども部屋だった1階の6畳間で就寝。橋本さんは2階の寝室で寝ていた。

「妻はいつも私よりも朝早く起きて、食事の用意をしてくれるのですが、その日は何も準備されていなかった。不思議に思って台所に入ると流しの前で妻がうつ伏せの状態で倒れていたんです」

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すぐに救急車を呼ぶも、搬送先で「心筋梗塞による死亡」だと診断された。

亡くなった直後は、葬式の準備や、銀行や役所のさまざまな手続きなど、忙しい日々が続き、感傷に浸る暇もなかった。

 

「2ヵ月くらい経ったころでしょうか。岩手の親戚に子どもが生まれて、東北新幹線に乗ったときです。窓から仙台駅の駅名看板を見て、ハッと妻と旅行の計画をたてていたことを思い出したんです。その瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出してきました」

忙しさで誤魔化していた喪失感が、どっと橋本さんに押し寄せてきた。

「何をするにも、すべてが『虚無』でした。好きだった日本酒を飲んでも味がないし、酔いも回らない。趣味だったカラオケにも一切足を運ばなくなりました。テレビも電気もつけず、ただボーッとソファに転がっているだけの日もありました」

風呂に入るのも、3日に1回程度。ほとんど動かないためか、橋本さんは不眠気味になり、うつ状態になっていった。