コロナウイルス時代にデフォー『ペストの記憶』が教えてくれること

「事実を求めるための感性」の磨き方
武田 将明 プロフィール

『ロビンソン・クルーソーの敬虔な内省』とは、前年に刊行された有名な『ロビンソン・クルーソー』の好評に乗じて刊行された作品である。上の引用でデフォーが言っているのは、要するに、作者であるデフォー自身が孤独な人生で経験したできごと(「ある種の監禁状態」)が、ロビンソン・クルーソーの無人島における冒険譚(「他のある種のそれ」)へと置き換えられている、ということだ(なお、『ロビンソン・クルーソーの敬虔な内省』の詳しい説明は、拙訳『ロビンソン・クルーソー』(河出文庫)の解説を参照のこと。同書には、この序文の全訳も収録されている)。

 

するとおのずから、この一節をカミュが引用した理由も見えてくる。第二次大戦の2年後に刊行された『ペスト』には、戦時中にナチス・ドイツへのレジスタンスに参加したカミュの体験が投影されていると言われている。つまり、『ロビンソン・クルーソー』も、『ペスト』も、それぞれの作者が実際に直面した特異な状況を、フィクションの形で再現したものなのだ。

このうち『ペスト』は、アルジェリアのオランを舞台に、この実在する町をペストが襲ったという設定で書かれている。新潮文庫の訳者解説によると、カミュは本書を執筆するのに5年以上の歳月を捧げたというが、確かにその克明な描写は真に迫り、中心人物の苦悩は哲学的な問いへと高められ、物語も巧みに構築されている。このような形で個人的な体験をフィクションに置き換えることで、カミュは極限状況の世界を客観的に観察する視点を提供している。

同じように、現代の読者も『ペスト』を読むことで、コロナウイルス流行下の世界を客観的に眺め、現実に冷静に立ち向かう勇気を得ることができるだろう。ここにこそ、カミュの『ペスト』が現代人を感動させる真の理由がある。

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