期待の「アビガン」、シミュレーションが予測する「効果と副作用」

パンデミックは長期的な闘いになる
平山 令明 プロフィール

SARS(サーズ)コロナウイルスとの類似

そこで、SARS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼとアミノ酸配列が似ている酵素を調べてみると、SARSコロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼのアミノ酸配列が非常に類似していることがわかりました。

その一致度は約94%で、この2つの酵素は基本的に同じ立体構造を取っていると断言できるほど類似しています。ウイルスの素性に関して色々な陰謀説が出る背景にはこの一致度の高さもあります。

幸いSARSコロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼの立体構造は実験的に明らかになっています[1]

そこで、この立体構造を基に、SARS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼの立体構造を予測してみました(この計算には統合計算化学システムMOE[2]に含まれるホモロジー・モデリング法というものを用いています)。図2に示すのがその構造です。

図2 SRAS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼの予測立体構造

タンパク質分子の表面を表示する方法で、示してあります。右側にポッカリと穴が空いていることがわかります。この穴を使ってこの酵素は原本のRNAからコピーのRNAを紡いでいきます。

したがって、この穴に医薬分子が結合して、RNA分子が入らないように妨害してしまえば、ウイルスのRNAはもはや増産されません。

シミュレーションが示す可能性

ASEDock[3]という私たちが開発したソフトウェアで、ファビピラビル三リン酸がこの部分に結合できるかどうかをシミュレーションしてみました。その結果を図3に示します。ファビピラビル三リン酸は穴の中に見事結合し、RNA複製の原料の侵入を妨害できることがわかりました。

図3 SARS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼの作用を妨害するファビピラビル

少し細かい話になりますが、SARS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼの働きには、少なくとも2つのアスパラギン酸が関与することが知られています。図3でファビピラビル三リン酸はその付近にまさに結合します。

以上の結果はあくまでシミュレーションですが、ファビピラビル三リン酸つまりファビピラビルはSARS-Cov-2のRNA依存性RNAポリメラーゼを効果的に阻害する可能性の高いことが示されました。

もちろん、ファビピラビルはSARS-Cov-2を意識して作った薬ではありませんので、必ずしもSARS-Cov-2に対して特異性が最適とは断言できません。しかし、シミュレーション結果は、ファビピラビルが治療に使用できることを明確に示しています

また、このシミュレーション結果を使えば、SARS-Cov-2をもっと効果的に攻めることができる化合物をデザインすることも可能です。

先に述べたように、今後いったんパンデミックが終息しても、ウイルスの再攻撃は確実に起こります。私たちは、それに対する準備を、今からでもすべきではないでしょうか?

関連記事