泡消火剤の使用のようす Photo by Getty Images

沖縄を覆った「有害物質泡」への日本人の対処が間違えすぎている理由

化学者が見た正体、分かりやすく解説!
沖縄の街が、川が、有害とされる「泡」に包まれた──。

その有害物質の正体は、米軍の普天間飛行場から流出した有機フッ素化合物「PFOS」だという。

コロナ禍のなかどうしてもニュースとしては目立たない格好だが、これは大事ではないのか?

このPFOSとは何か、有害性は高いのか、どう対応すればいいのか。分析経験豊富な化学者が緊急解説する。

2020年4月10日、沖縄で発生した「PFOS含有泡消火薬剤」の生活環境への流出について、日本政府や沖縄県が普天間飛行場に立ち入り現地調査を行いました。

日本側関係者が環境補足協定第4条に従い、普天間飛行場に立ち入ること、また実態調査を行うこととなったのです。どこまで分析結果を示せるのか、コロナウイルスの最中に、政府や沖縄県はどこまで踏み込めた議論ができるのか、今後の注目が待たれるニュースです。

ですが、ちょっと待って、そもそも「PFOS(ピーフォスと読みます)」とは何ですか? そんな疑問を持つ読者も多いのではないでしょうか。

 

PFOSは有機フッ素化合物のひとつ、主に消火剤、撥水剤などに利用される合成化学物質として国際的な規制がされています。──と言われても、まだよくわからない方が大半だと思います。

この物質、私は化学者として約20年前から研究対象としてきました。今ではなかなかの有名物質となり、何だか「出世したな~」と感じてしまうほどです。そこで今回は、「PFOSの何が問題なのか」「環境モニタリングとは」といったあたりについて、分かりやすくコラムにしました。ぜひ、私の経験と共にお話しする「今だから言えること」を知っていただけたらと思います。

環境ホルモンの影に隠れて

PFOSは、最近ではニュースになるぐらいに有名な汚染物質となりました。しかし、その化学物質が注目されはじめたのは、2000年代初めごろのことです。

実は私の研究テーマのひとつでもありました。ある学会でPFOSの存在を知り、非常に興味がわいてきたのを今でも思い出します。PFOS(ピーフォス)ってネーミングも何だか可愛いので気になったのは内緒です……。

2000年の初めごろは、「内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)」の問題が世界中を席巻していました。環境ホルモンの代表格はビスフェノールA、ノニルフェノール、フタル酸エステル類が挙げられますが、それ以上に知れ渡っていたのがダイオキシンです。

ダイオキシンは、化学物質の構造上に複数の塩素原子(Cl)を持つことが特徴です。カネミ油症事件で有名なPCBも同じような化学構造を持った物質です。

PCB(ポリ塩化ビフェニル)の構造

当時は、環境ホルモンの学会発表が非常に多く、さまざまな検証や分析などが報告されていました。どの会場も満席で、当時の熱気あるなか、ある人気のない発表を偶然に聴講していました(たまたま、学会中空席があり、空き時間だったので……ごめんなさい)。

そのとき、発表している汚染物質の構造式を見た瞬間、「これはなんだ!重大な環境問題になるんじゃないか! 今すぐに大学へ戻り研究を立ち上げよう!」と奮い立ちました。

なんと、その化学物質には、フッ素原子(F)が大量に存在しているのです。

PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)

これは、近未来的において第二のダイオキシンやPCBとなる可能性があるのではないか? そう指摘する記事も発表しました。

つまり、第17族元素のClがFに代わっただけじゃないか、という単純な発想です。

日本人の血液に存在し続ける汚染物質だった!

こんなにFが連なった化学物質が世界中の環境水、土壌、野生動物から検出されていたら、人間にも汚染されているかもしれない。

すぐに分析法を開発して検討を進めるべきだ! と息巻いて研究室に戻ったのですが……。

当時の主任教授より「そんなものどうでもよい! 早く、ビスフェノールA分析をやれ!」との一喝で撃沈です。

しかしながら、若気のいたり、そんな一言では負けない元気がありました(今ではすぐにあきらめてますが……)。勝手に試薬や標準品をそろえて、勢いだけで血液中からの分析法を開発しました。