SNSやYouTubeを通して発信された「助けてください」のSOS。新型コロナウイルス感染拡大により、もっともストレートな言葉で困窮する現状を伝えたのは、伊勢角屋麦酒の社長・鈴木成宗氏だ

445年続く老舗餅屋の21代目ながら、1997年に伊勢角屋麦酒を創業。紆余曲折を経て、国内外の審査会でメダルを多数獲得。世界に名だたるブルワリーとなった。都市圏のビアバーを中心に数多くの飲食店でも取り扱われ、工場も新設。順風満帆だっただけにそのショックは計り知れない。現在の率直な心境を伺った。

インタビュー&文/エビス_セイキ

放っておいたら売上は前年の8割減。
一本でもどなたかに届いて欲しいと
「宅飲みセット」を考案・販売へ

普段は、“発酵野郎なりぴー”として明るい姿をYouTubeで発信している鈴木社長。しかし4月11日に発信された動画は、伊勢角屋麦酒の社長・鈴木成宗として、その危機的状況を話し、SNSでメッセージを投稿した。かくいう私もそれを見てただならぬ状況を感じたひとり。

 

すぐさま、ホームページで販売されていた「宅飲みセット(5.5)」を注文した。 

著者が実際に購入した「伊勢角『宅飲み』セット第5.5弾緊急追加 乾杯イセカドset」¥3547。現在は売り切れ。撮影/エビス_セイキ

どのブルワリーも大変な状況であるのは間違いない。数ある中で私が鈴木社長にお話を伺おうと決めた理由。それは、クラフトビールを愛飲するようになったきっかけが伊勢角屋麦酒の「神都麦酒」だったから。10数年前にお土産でいただいて飲んだとき、こんな味わい深いビールがあったのか! と驚いたものだ。

それから時を経て、クラフトビールブームの最中、今もなお伊勢角屋麦酒のビールをお店や家で飲ませていただいている。そんな愛するブルワリーの危機に居ても立ってもいられなかった。注文の際、届いた御礼メールへの返信にて取材を依頼。鈴木社長へ電話インタビューを行った。

伊勢角屋麦酒 鈴木成宗社長。写真提供/伊勢角屋麦酒

ーーまず伺ったのは、今回の新型コロナウイルス拡大による影響について。動画でも話されていたが、その壮絶さに改めて驚かされた。

「私どもの大きなマーケット、都市部を中心とするビアバーさんと伊勢志摩に関するお店や施設が壊滅的だったので、影響としては甚大です。放っておいたら会社の売上は前年の8割減になりかねませんでした

伊勢角屋麦酒 下野工場。写真提供/伊勢角屋麦酒

ーービールは仕込みから出来上がりまでに約40日を要する。その後、瓶詰めや樽詰めが行われ出荷されていく。ここまでで2ヶ月から3ヶ月。今、タンクに眠っているビールは1月や2月に仕込んだもの。まだ新型コロナウイルスに対して、驚異を強く感じていなかった時期といえよう。

刻々と状況が変わり、伊勢からは観光客が消え、ビアバーは営業を自粛。それぞれに行き届き、飲まれるはずだったビールは、瓶入り、樽入りなどで12万リットル以上、330mlの瓶にして36万本以上が行き場をなくした。そして、現実問題として重くのしかかってきたのが酒税。工場から出荷された時点で酒税はかかってしまうのだ

「私たちの世界では絶対まぬがれない問題です。今回の件に対して酒税納税の猶予に対する制度ができましたが、あくまで猶予であって、免除ではありません。そんな状況でしたので、『助けてください』と発信しました」

伊勢角屋麦酒23周年祭限定ビール「Amazake Hazy IPA ZAKU」。「作」で知られる三重の酒造、清水清三郎商店とのコラボレーション。撮影/エビス_セイキ

ーーそこで考え出されたのが「宅飲みセット」。伊勢角屋麦酒の定番商品をはじめ、23周年祭で飲まれるはずだった限定ビールなどを詰め合わせた。その都度内容や本数を変えながら、今も販売。家から出られずツラい思いをしているビール愛好家を中心に売れ続けている。

「これまで弊社はeコマースに対してそこまで力を入れていなかったため、少ししか売り上げが出ていませんでしたが、非常に大きな反響をいただいています。今回の発信は、SNSやYouTubeの他、私が長くお付き合いさせていただいてる方々にメールを送らせていただきました。

みなさんも大変だと思いますが、もしよかったらという内容を送りましたら、こちらもすごく大きな反響をいただきました。中には『社員全員に配りたいから270セット送ってください』という注文もあり、持つべきものは友だなと強く感じました。SNSで拡散してくださった方も含めて、これほどありがたいと思ったことはありません

写真提供/伊勢角屋麦酒