MERS(中東呼吸器症候群)と韓国の関係

増田 MERSもコロナウイルスなんですよね。

池上 そうです。SARSや新型コロナウイルスと同じくコロナウイルスです。もちろんそれぞれ遺伝子の型は違うコロナウイルスですけど。MERSはサウジアラビアのヒトコブラクダが宿主なんですが、元々の由来はコウモリではないかと言われています。 ラクダに乗るくらいはいいのだけれど、過度な接触は危険です。 

増田 過度な接触が危険だということは、まだ収束していないということですよね。だから最初の2012年の流行と2015年の韓国での流行があるんですね。 

池上 そうなんです。感染の地域も今のところ限られているので、薬やワクチンをつくっても、製薬会社として利益が出ないので、MERS対策はあまり真剣ではないといえます。しかしMERSの方が、SARSより致死率が高いんです。ただ、致死率が高いのは中東の医療体制の問題があるからなのかどうか。その理由は正確にはわかりません。 

増田 韓国ではどうして広がったのですか。 

2015年6月に韓国で初めての死者が出たMERS。釜山国際空港には英語とハングルでMERSの注意事項が張り出されていた Photo by Getty Images

池上 観光で中東へ行った人が感染して、韓国に戻って症状が出たとき、病院に行ってもなんの病気かわからなくて、医者を渡り歩いたんです。その結果、たくさんの病院で院内感染が起こってしまいました。一つの医療機関の診察で満足できず、次々に医者にかかることを「ドクターショッピング」といいます。これが感染を広げたのですね。 

増田 患者が病院へ行って感染を広げてしまうのも感染症の典型的な特徴ですね。

池上 ただ、このときの経験があって、インフラはじめ対応策が事前に整備されていたからこそ、今回の新型コロナウイルスへの細かな対応が、韓国では可能だったのです。
こうして見ると、日本は島国ですから、水際対策でなんとかこれまでやってきました。運良く、SARSもMERSも日本へは入ってきませんでした。しかし観光立国のかけ声のもと、インバウンドを呼び込み、以前に増して人の行き来が盛んになっている日本が、これまでと同じような対策だけではいかないことは、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で明らかでしょう。

『感染症対人類の世界史』14世紀に大流行したペストに始まり、天然痘、スペイン風邪、SARSにMERS、豚インフルエンザにエボラ出血熱、そしてインフルエンザ……。池上彰さんと増田ユリヤさんが、様々な感染症と人類との闘いを紐解き、歴史を語り合った一冊。シルクロードを通じて広がった感染経路、日本の感染症の歴史、人々の英知を集めた感染症との戦いが、新型コロナウイルス感染拡大の今、光となる。ポプラ新書