SARSはなぜ日本に感染拡大しなかったのか

池上 2002年、中国の広東省で患者が報告されたのに端を発し、アジアを 中心に32の国や地域に広がったのが、SARSコロナウイルスです。中国はもちろん、香港やベトナムで院内感染が起こり、大きな被害を生んでいます。
中国は感染が広がった当初、情報を隠蔽しているんですよね。

2003年4月の香港空港。キャセイパシフィックは乗客の検温を義務付けた。WHOの発表によると、2003年7月7日までに香港の感染者は1700人を超え、死者は300人に迫った Photo by Getty Images

増田  今回の新型コロナウイルスについても、このときの中国の情報公開への不信感からか、疑いが持たれています。 

池上 そうなんですよね。ただ、当時の中国も経済力はかなり上がっていたのですが、今ほど国際的な影響力はありませんでした。こんなに大勢の中国人が世界中で働いたり、観光に出かけたり、学生が留学したりしていなかったのです。その結果、SARSは、今回の新型コロナウイルスよりは広がらないで済んだとも言えるのかもしれません。ところが今は時代がすっかり変わり、中国の影響力はとても大きくなった。

増田 中国の人たちがいないところなんてない、と言っても過言じゃありません。やはり人の行き来の多い少ないが感染症の広がり方を左右します。

池上 ですが、このとき、今もよく聞く、「スーパースプレッダー」(大勢の人に感染を広げる人)はいました。 

増田 そうなんですか。 

池上 中国の医療関係者が感染して、香港のホテルに泊まったんです。その人が押したエレベーターのボタンから、次々と感染していったんです。 

増田 それがあったからでしょうか。エレベーターのスイッチの押し方まで気をつけるようになったのは。

池上 そうかもしれません。台湾で感染した医師が、日本へ旅行して中国・四国地方を回って台湾に戻って発病したこともありました。日本では大騒ぎになりました。 

増田 全然覚えていないです。 

池上  そういう人がほとんどなんですよね。中国・四国地方だったので、首都圏では大きく報道されなかったからかもしれません。結局、日本で感染者が出なかったからですよ。しかし台湾では大きな被害が出たため、その教訓を活かした結果、今回の新型コロナウイルスでの対応が評価されているんです。