19世紀のペスト流行は中国から始まった

増田 交流が盛んな国の人同士で感染が広がるのは、今も昔も変わりません。モンゴル帝国、つまり元の人たちは、一日100キロも移動したといわれています。それは、替え馬を用意していたことで可能だったようです。要は、駅をある程度の距離ごとに道に配置して、そこに馬を用意して、乗り継ぐのですね。それで広大な範囲の領土を管理し、支配することに彼らは成功したのです。

池上 あれだけ広大な土地を支配するには、そういうスピードが必要ですよね。何かあってもすぐに対応できなければ、広大な土地ですから、国があっという間に分裂してしまう可能性だってある。それにしても、そんな強力な元に日本は負けないで本当によかった。元寇で日本が負けていたら、きっと日本にもペストが蔓延する結果になっていたでしょう。島国で助かったところがあります。

増田 島国だからいいところと悪いところがきっとあると思いますよ。大陸の陸続きの国家と島国とでは、どこか考え方が違うでしょうし、いろいろな危機に際しても、考え方や対応の仕方が変わってくるのではないでしょうか。

池上 なるほど。しかし中国のせいとは言いませんが、中国から感染症が拡散することが多いのは否めないような気がします。19世紀にもペストが中国から広がります。当時ペストは、中国南西部の雲南省の病気として知られていました。それが広東省に広がって、世界中に広がっていきます。

原因として考えられている一つの説があります。きっかけは、1840年に起こったアヘン戦争に清が負けたこと。清は、インドからのアヘンの密輸を禁止するんです。そうすると、どうなるか。輸入できないのであれば、国内で自分たちでつくろうと。 そのアヘンを栽培した地域の一つが雲南省で、そこからアヘンと共にペストも広東省へと広まったというのです。

増田 現代に生きる私たちは、アヘンのような麻薬を取引するなんて、と自分たちの常識で考えがちですが、貿易品目一つとっても、その時代ごとの状況があるんですよね。
過去に幾多の感染症が、交易を通じて拡大しました。一段とグローバル化が進んでいる現代だからこそ、新たな感染症の発生と拡大に対する警戒が必要だということを、改めて痛感しますね。

感染症対人類の世界史』14世紀に大流行したペストに始まり、天然痘、スペイン風邪、SARSにMERS、豚インフルエンザにエボラ出血熱、そしてインフルエンザ……。池上彰さんと増田ユリヤさんが、様々な感染症と人類との戦いを紐解き、世界史を語り合った一冊。シルクロードを通じて広がった感染経路、日本の感染症の歴史、人々の英知を集めた感染症との戦い――こうした過去の知識が、新型コロナウイルス感染拡大の今、光となる。/ポプラ新書