池上 既に紀元前2世紀頃にはシルクロードは確実にあったということですから、この頃、中国からペストが伝わっていてもおかしくはないのですが、DNA鑑定はできていないので、正確にはわかりません。あくまで推測であって、学問的にまだつきとめられていないわけです。中国かもしれないし、中東方面の可能性もあるかもしれません。

ただし、その後のヨーロッパでのペストの流行は、中国由来であることがDNA鑑定で判明しています。2010年、アメリカの科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」の国際研究チームが17株のペスト菌の遺伝子配列から、中国に起源があることをつきとめたのです。そのDNAが14世紀に流行したヨーロッパのペストのDNAと一致したわけです。

増田 このペストの流行によって、東ローマ帝国の人口は半減して、国力が衰えていくことになります。ただ、歴史の教科書では、ペストの影響にはあまり触れられていないんです。

池上 感染症によって国が衰退への道を辿り始めるというのは、すごいことですよね。今回のコロナ感染拡大で経済が破綻しかかっている国々の様子を見ると、とても歴史上のことと片付けられない気がします。でも、今回の新型コロナウイルスの流行がなかったら、あまり注目されなかったかもしれませんね。そう考えると、今後の歴史の教科書では、感染症と人類の関わりについて、もっと詳しく触れられることになるかもしれません。

繰り返される中国からの感染症の拡散

増田 14世紀のヨーロッパでのペストの流行の前にあったのが、モンゴル帝国によるヨーロッパへの遠征と領土の拡張です。 

池上 13世紀にモンゴル帝国が東アジアからヨーロッパの広大な領域を支配して、それからペストもまた広がったということですよね。 

増田 モンゴル帝国は、今のハンガリーやポーランド、トルコやクリミア半島まで侵攻します。その中でペストが広がっていったとしてもなんら不思議ではないです。 

池上 1271年に元へと国号を変えたモンゴル帝国ですが、1331年からペストが流行し始めます。 

増田 それが1347年から1350年のヨーロッパのペストの流行の時期と重なりますよね。 

池上 広大な国の元に隣接するというか、ヨーロッパも一部が元だったわけですから、ペスト菌が運ばれていくのは当然ですよね。