坂口 これまでの研究で、界面活性剤の「親水基」は電気的な相互作用を起こすと「発熱」し、「疎水基」は脂と反応すると「吸熱」することがわかっていました。
頭が働くと熱くなり、尾が働けば冷える。
つまり、ウイルスに界面活性剤を加えて温度を測定し「発熱」していれば「親水基」が働いている。「吸熱」していれば「疎水基」が活発だとわかるわけです。
その熱はきわめて微小ですが、等温滴定型熱量測定器(ITC)で測定できます。
その測定結果は驚くべきもので、界面活性剤のウイルス不活性化メカニズムの新発見でした。
秋葉さんの研究結果を整理するとこうなる。
1)広く普及しているハンドソープの合成系界面活性剤(ラウレス硫酸ナトリウム、LES)では、尾の「疎水基」がウイルスの表面(脂質二重膜)にとりつくので、「吸熱反応を」起こしている。これは従来の常識を裏付ける。
2)自然素材無添加石けんの界面活性剤(オレイン酸カリウム、C18:1)もウイルスのエンベロープ(外殻)に取りつくが、「発熱反応」は合成系界面活性剤では見られない別の反応をうかがわせた。
3)それは何を意味しているのか……。
自然素材石けんの界面活性剤はスパイクタンパクの一つ、HAに取りついていた。
4)HAにとりつくのは、「疎水基」と「親水基」という化学的な反応ではなく、それよりもはるかに大きな力が働く電気的な相互作用(静電的相互作用)で説明できる。
5)それは、前回紹介した自然素材無添加石けんの界面活性剤のウイルス不活性化(破壊力)が、一般のハンドソープの合成系界面活性剤と比べて100〜1000倍も大きいという実験結果を裏付ける。
秋葉さんと共同研究したシャボン玉石けんの川原貴佳さんはこう語っていた。
川原 自然素材無添加石けんに含まれる界面活性剤が、「親水基と疎水基」の原理でウイルスのエンベロープを壊すだけでなく、まったく別の凄まじい攻撃力でウイルスの武器を引き抜くのだという研究成果には勇気づけられました。
川原 もちろんこの研究は新型コロナウイルスではなくインフルエンザウイルスに関してのことなので、新型コロナウイルスでも同じかどうかの確認研究は急がねばなりませんが、坂口先生もおっしゃっているように、新型コロナウイルスでも同じ効果が期待できると考えています。
ところで、新型コロナウイルスの感染を防ぐためには頻繁な手洗いが必須だが、とりわけ医療従事者はその回数が多くなっているはずだ。