保健所職員の告白「検査も人員も何もかも足りない」あまりに過酷な現場

「公衆衛生」を軽んじてきたツケ
中原 一歩 プロフィール

この男性のよると、最近、増えたのが年齢に関係なく「一人暮らし」の住民からの相談だという。発熱、倦怠感があり、極めて感染が濃厚だったとしても、生活全般の面倒は、自分で看なければならない。場合によっては外出もやむを得なくなる。

「発熱し、もしかすると自分は陽性かもしれない、と不安を口にする一人暮らしの人に、どなたか、周囲に頼れる人はいませんか、と返しても会話が途切れるだけ。友人に助けを求めるにしても感染のリスクがあるので憚られる。そもそも身寄りがなく孤立している人もいる。電話口で『どうしたらいいでしょうか?』と尋ねられても、検査をして陽性とならなければ保健所は動くことはできない。今後、一人暮らしの高齢者が、医療に行き着く前に死亡するケースが増えると思っています」

 

全員に専門知識があるわけではない

しかし、保健所は、コロナ対策のような疫病の予防以外にも、子育て、特に母子保健や、食品に関する安全調査、最近ではうつ病などの精神疾患、引きこもりやアルコール依存症をもつ人の心の健康相談など、幅広い分野でのサービスを実施している。

こうした業務には専門的な知見と技術が必要なため、職員には医師、保健師、栄養士、ケアマネージャー経験者などが配置されている。しかし、全員が未知のウィルスに有効な防御の知識がある訳ではない。

今回、取材に応じた世田谷区の保健所の平時の職員数は40人。これで、全ての部署をまかなっていた。現在は非常事態なので急遽、人員を増やしたが、それでも52人。世田谷区の人口はおよそ93万人である。今は部署横断で新型コロナウィルス対策を優先しているが、当然、通常業務を止めることはできない。