保健所職員の告白「検査も人員も何もかも足りない」あまりに過酷な現場

「公衆衛生」を軽んじてきたツケ
中原 一歩 プロフィール

こうした「unreported cases(報告されていない感染者)」は早くから指摘されていた。しかし、内閣官房に設置された「新型コロナウイルス感染症対策本部」のプランは「クラスター対策による感染拡大の防止」だった。厚労大臣のレク用に作成された資料にはこう明記されている。

「多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていない。その一方で、一部に特定の人から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在し、一部の地域で小規模な患者クラスター(集団)が発生」。その対策として「クラスターの発生の端緒を捉え早期対策を講ずることで、今後の感染拡大を遅らせる」とある。

この「一部の地域」として槍玉に上がったのが「ナイトクラブ」だった。事実、感染した芸能人やスポーツ選手の足取りを調査すると、夜の社交街のクラスターの存在が確認されている。このクラスター対策から導き出されたのが、「密閉」「密接」「密着」を避ける「3密」を避けるという方針だった。

 

最初から徹底した調査をすべきだったが…

しかし、4月に入ると感染経路が不明の感染者が続出。政府は一転して検査対象を拡大する方針に転換する。しかし、保健所の関係者の多くが、初動の段階から政府の方針に首を傾げていたという。前出の保健所職員が語る。

「最初から体温や年齢に関係なく徹底した調査をしていればよかった。病床が足りないのであれば、もっと早くホテルなどを借り上げ、軽症者と重症者を分けた上で入院させ治療できる体制が取れた。東京都は感染者数を公表しているが、民間検査の結果は反映されていない。そもそも、全体で何人が検査を受け、何人が感染したのかが分からないのです。発表された感染者数よりも、実態ははるかに多いことは保健所の誰もが肌感覚でわかっていました」

PCR検査の拡充は当然と、この男性は語る。しかし、突然、方向転換したとしても、現状の保健所のリソースでは、実際には対応できない――保健所からはそんな悲鳴が聞こえる。その事実にも注目する必要があるだろう。