PCR検査のデモンストレーションを行う横須賀医師会のメンバー〔PHOTO〕Gettyimages

保健所職員の告白「検査も人員も何もかも足りない」あまりに過酷な現場

「公衆衛生」を軽んじてきたツケ

新型コロナウイルスが拡大を続けるなか、保健所の現場には過大な負担がかかっている。過酷な状況、そしてその背景にある日本の「公衆衛生政策」の貧弱さを、ノンフィクションライターの中原一歩氏がレポートする。

電話が鳴り止まない

全く同じ光景を9年前、東日本大震災の被災地で見た。

東北のある地方自治体。市役所に殺到する電話での問い合わせを、わずか数名の行政の職員が対応していた。「家族が津波で流された」「身内が全壊した家の下敷きになっている」。すぐにでも救援部隊を向かわせたいが、津波によって交通インフラが寸断され、それもままならない。電話は朝から晩まで鳴り止まなかった。机の上には殴り書きのメモが散乱。職員は電話を受けることができても、何一つ解決できない無力感に苛まれていた。あの当時を職員の一人はこう振り返る。

「電話をいくらとっても終わりが見えない。残業が続き自宅に帰ることもできない。人の命がかかっているので、できる限りのことはやりたいのですが、自分には頑張ってください、としか言えない。すでに生死をかけて頑張っている人に、それしか言えない虚しさと、何もできない自分への苛立ち。一番辛かったのは誰にも弱音を吐けないことでした」

今、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、全く同じ状況が大都市の保健所で発生している。コロナ発生以来、各自治体の保健所は「帰国者・接触者相談センター」の窓口となった。4月7日、非常事態宣言が発令された頃から各地の保健所には電話が殺到している。

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筆者が都内でも最大の陽性者数(4月21日現在、246人)が報告されている世田谷区の保健所に確認したところ、一日の問い合わせ数はおよそ300件。6回線の電話を使い9人体制で対応しているが、これ以上は難しいと悲鳴をあげる。