つまづいてないのに転んだ日

2019年の3月のこと。買ったばかりの長靴タイプのスノーブーツを履いてスタジオに向かっている時でした。

赤坂のちょっとした坂の上にあるスタジオに向かう最中に前から右折車が来たので小走りに道路を渡ろうとしたところ、何もない場所であるにもかかわらずつま先が思ったよりも上がらず、盛大に転んでしまったのです。 

自分自身でも全くもって何が起こったのか理由が分からずに、車の方もあまりの見事な転びっぷりに窓を開けて「だ……大丈夫ですか?」と声をかけてくれた程でした。運動神経と体幹バランスには自信があった私としてはショックを受けた出来事でした。 それでもまだ帰宅して妻に「今日、盛大に転んじゃってびっくりしたんだ、でもうまく転んで怪我はなかったんだ」と笑いながら話せた感じでした。

しかし、その転倒の数日後、今度は平坦な道の段差で同じように転びかけました。 確かに電車の時間に間に合うようにと少し小走りではあったのですが、普通に考えて転ぶような状況ではない場所です。さすがに「あれっ?」と思いましたが、「今年おろしたばかりのブーツがあわなかったのかな?」くらいにしか思いませんでした。そして、履きなれた靴に履き替えて「転ばないように」という感覚をしっかりと脳裏に焼き付けながら歩き始めたところ、転ぶことは無くなりました。

実は後から知ったのですが、この一連の事はALS(筋萎縮性側索硬化症)や重症筋無力症をはじめとした運動神経が麻痺するタイプの病気の顕著な初期症状なのでした、通常ならば新しい靴にすぐに慣れていた運動神経が、靴に慣れるどころか適合しない方向に向かってしまうという事。 この「あれっ?」から始まって1年後に「全く自力で歩けない」状態にまで現在進行しています。

「ニャンちゅう」の声でおなじみの声優・津久井教生さん(59歳)がALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかっていることを公表したのは、2019年10月のこと。最近では美容家の佐伯チズさんもALSであることを公表しました。

「ALSは闘う事ができない病気、『難病』なのです」津久井さんは言います。そして、声優として、音楽家として、テレビや映画のみならず多くの舞台を主宰するなど活躍してきた津久井さんが、公表から半年経ったいま、ALSに罹患した自身のことを率直に綴れるようになったそうです。連載「ALSと生きる」の第1回は、発症したときのことをお伝えいただきます。
2020年の「ニャンちゅう」チームの皆さん。左から比嘉久美子さん、津久井さん、鎮西寿々歌さん 写真提供/津久井教生