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新型コロナ時代に、ジョージ・オーウェルが再び注目される理由

「ディストピアの言語」とは何か

再帰する「オーウェル」ブーム

ここ4〜5年、マスメディアやソーシャルメディアでジョージ・オーウェルの名を目にする機会が増えた。ふりかえるなら、米国を中心に、『一九八四年』が刊行された1949年から1950年代前半にかけて最初のブームがあった。つぎに「オーウェル年」と呼ばれた1984年に第2のブームが起こった。そうすると2016年から現在までつづいていると思われるこの盛り上がりは、この70年間で3度目の「オーウェル」ブームということになる。

もちろん70年以上にわたって『動物農場』(1945年)も『一九八四年』も、少なくとも英語圏では、版が一度も途切れることなく長く読まれてきたし、日本でも(通常の書物形態にかぎれば)『動物農場』は10点以上、『一九八四年』は3点の翻訳がこれまでに出され、持続的に読まれてきたのはまちがいない。上記以外でも村上春樹の『1Q84』刊行時の2009~10年に『一九八四年』は再注目された。それでもいま述べたような格別に大きなうねりというものがあった。

3度目の始まりを2016年とするのは、米大統領選挙がその年の11月にあり、大方の予想を裏切って共和党候補のドナルド・トランプが民主党候補のヒラリー・クリントンを僅差で破り、大統領に選出された節目だからだ。

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ちょうど「ポスト真実(Post-truth)」という語がよく目にふれるようになった時期である。「客観的な事実が世論形成にあまり影響力を及ぼさず、むしろ気分や個人の信念に強く訴えかけるような(政治)状況」を示すこの語の使用頻度が激増し、オクスフォード大学出版局はこの語を2016年の世界の流行語大賞(Word of the Year 2016)とした。

そして大統領選直後に書店では『一九八四年』が急激に売り上げを伸ばし、大統領就任式があった2017年1月20日の前の週には、他の最新作を抑えてAmazon.comの売上リストで第一位の座にのぼった(Sean Rossman, USA Today)。CNNも大きなニュースとしてこれを伝え、そのウェブ版の記事(2017.01.25.)の小見出しは、「2017年は『1984』の売り上げにとっては超々良い(doubleplusgood)」(Eric Levenson, CNN)と、「ニュースピーク」用語(後述)を使って表現している。

現在出ている日本語版『一九八四年』もこの時期書店に平積みになっていたし、版元が冒頭の数章をウェブ上に無料公開した際に、「「ポスト真実」時代を予言したと話題のジョージ・オーウェル『一九八四年』」という惹句を載せた。