「浮気」こそ、人類の脳が巨大になった原因かもしれない

「社会脳」という謎【前編】
Ore Chang プロフィール

リドレーが指摘しているような、サピエンスが社会において高い評判的地位を獲得しようとしたり、みんなに蔑まれ悪い評判に貶められることを避けようとする心理や行動は、現在の進化心理学では「プレスティージ(=名声)」戦略と呼ばれている。

かつて、脳の進化の説明がしきりに「生態的チャレンジ」に求められたのは「人類はお互いに協力して自然環境に存在する脅威に打ち勝ってきた」というストーリーが、(無意識に名声を求める=プレスティージ戦略を遂行している)学者や知識人たちにとって耳障りがよく、好まれやすかったということもあるかもしれない。

しかしこの「生態的チャレンジ」説は、様々な証拠とはどうも折り合いが悪かった。

 

脳を進化させたのは「人間関係」だった

ここで登場するのが、人類の進化をとりまく「環境」とはじつは「自然」ではなく「社会」であった、とする見方だ。

これは生態的チャレンジ説に対し社会的チャレンジ説と呼ばれる。われわれ人間の脳が大きく進化したのは、他の人間(の脳)に対処するためだ、というのだ。

『嫌われる勇気』で一躍有名になったアドラーの心理療法によれば、日常的なヒトの悩みのほとんどすべては「対人関係の悩み」だという。筆者はアドラーの理論を支持していないが(生物学的なロジックから心理が説明されていないため)、われわれの脳みそが日々もっぱら苦悶しうまく対処しようとしているのが「人間関係の問題」であるならば、脳がそれを処理するために進化によってデザインされた道具だという見方は、自然に思われる。

否、悩むだけではない。われわれ人類の脳は人間関係を考えることを欲し、楽しんですらいる。

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