「浮気」こそ、人類の脳が巨大になった原因かもしれない

「社会脳」という謎【前編】
Ore Chang プロフィール

いろいろな説があるが…

いま「情報処理」と言ったが、これこそ生物学者が想定している脳の「機能」だ。身体内部のパラメータを監視して、その生物が置かれた外界の状況に適切な状態に管理することが、脳が担うべき情報処理という役割である。

ここから、人類の大きな脳は外界の生態学的状況を詳しく把握するための学習装置として進化したという「博物学者としてのヒト」説が出てくる。これは一面的には真実かもしれないが、脳の進化にとって決定的な要因とは言い難い。

そもそも、逆になぜ、本来は変わりばえしないはずの環境についての情報を「学習」する必要などあるのだろう? 自然選択によって獲得されるプログラム(=本能)には、祖先たちのトライ&エラーによる解法が統計的に反映され、自動化されている。それを個人が勝手に「再デザイン」するのは危険ではないだろうか。「恐ろしい模様を持ったヘビに噛まれると危ない」とか「派手な色の生物には毒がある」といった本能的な経験則をわざわざ忘れて、一からやり直す合理性はない。

Photo by iStock
 

ならば、脳は「文化」を蓄積するために進化した、というのはどうだろう。環境とちがって文化は変容するので、これはかなり見込みが高い説だ。ただし後期の人類(の脳の進化)に関して言えば、である。チンパンジーやゴリラも脳が大きいが、彼らは文化を蓄積するためにアタマをつかっているわけではない。

また文化説にも「テンプレ型の知識を実行することに高度な思考デバイスは必要ない」という事実が重くのしかかる。文化の大半は独創ではなく「自分の頭でよく考えずに、他人のやり方を模倣すること」だ。大きな脳の進化を駆動するような認知的挑戦にはならない。

それならば、脳にはとくに適応に役立つ理由などなく、たまたま大きく進化しただけ、という知性の中立進化論はどうだろう。残念ながら、「たまたま大きくなった」にしては、脳はあまりにも代謝コストが大きい。サピエンスの脳は体重の約2%にすぎないのに、身体全体で使われるエネルギーの約20%も消費しているのだ。

「肉を食べることで代謝が増大し、後天的に脳が大きく発達する余地が増えた」などの説も「機能」という点に言及していないので駄目だ。エネルギーの問題はあくまで脳の大きさの"制約"として働くだけなのだ。

関連記事

おすすめの記事