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「浮気」こそ、人類の脳が巨大になった原因かもしれない

「社会脳」という謎【前編】

本当に「道具を作るため」なのか?

ヒトの脳は、いったいなぜこんなにも大きいのか。

進化とは、端的に言えば、種が辿ってきた「淘汰」の歴史である。キリンの長い首の進化には「(相対的に)短い首を持っていた個体が少しずつ淘汰されてきた」という統計的事実が反映されている。

したがって、人類の巨大な脳の進化を考えるならば、われわれの祖先が暮らしてきた環境において、小さな脳を持っていた個体(とその遺伝子)はなぜ淘汰されてしまったのかを考えることがカギになる。

脳という器官をここまで大きく特異に進化させる要因となった、人類の祖先にとっての「遺伝子の生存(=生存と生殖)に関わる問題」とは何だったのか?

従来、人類学者や考古学者らが強調してきたのが「生態的チャレンジ」、つまり、厳しい自然環境の淘汰圧に対処するためという説だ。

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適応とは、その種にとって遺伝子の生存をおびやかす問題(=適応課題, Adaptive Problem)が自然選択によって解決されるプロセスのことを言う。アフリカのサバンナに生息していた人類の祖先にとっては、獰猛な捕食者を撃退するとか大きな獲物(食糧)を狩るといったことが重要な適応課題だっただろうし、その為には道具だって製作して使えた方がよかっただろう。人類学者のケネス・オークリーは1949年に『Man the Tool-Maker(道具製作者としてのヒト)』と題した書籍を刊行し、この説を広く世に知らしめた。

しかし、この「道具説」には様々な問題点がある。チンパンジーはわれわれの祖先であるホモ・ハビリスと同等レベルの道具製作能力を持っているのに、チンパンジーとホモ属ではまるで脳の大きさが異なる。また、脳の複雑さの進化と道具(石器や土器)の設計の複雑さが連動していない。

それに、人類がつくる道具のデザインはたいてい規格化されていて、いわば「サル真似」によって作られている。人間の脳を分析し模倣しようとしている人工知能開発者が直面している課題とは、規格(設計書)通りに道具を製作する知能ではなく、クリエイティビティを持った知能を作ることの難しさだ。テンプレート式の情報処理は、高い知性を必要としない。