安倍政権が収入減少世帯に対して30万円の支給を行う方針に対して、多数の非難の声が上がっていた。
確かに、マイナンバーカードが普及していない日本で「自己申告」の内容をどのように確認するのかとか、30万円をもらえる人ともらえない人との線引きが難しいという問題点があった。もし線引きされた結果ギリギリでもらえなかった場合の落胆も大きかったはずだ。しかしそれでも、「本当に必要な人に限定して支給」するという考えは妥当であったと思う。
ところが突如方針を転換して、収入減少世帯への支給をやめて、全国民に一律に10万円を配布することになったと伝えられている。もちろん、私も含めた全国民は「一律10万円」をもらえるのはうれしいし、公平なような感じもする。
しかし実は、この10万円を「貰う」と表現するのは正確ではない。我々が支払った税金の「払い戻し」あるいは、「貸し付け」にしか過ぎないのだ。
もちろん、高齢者は10万円をもらったままあの世に行って「逃げ切り」を決め込むことも可能だが、若い世代はそうはいかない。
1人10万円を1億2000万人の国民にバラまくとすれば12兆円が必要だ。収入減少世帯支給用に準備していた4兆円の他に8兆円が必要となるが、国債を発行せざるを得ないであろう。4兆円部分もたぶん財政赤字になっていくであろうから、若い世代は総額12兆円もの借金の返済に将来苦しまなければならないのだ。
この危険な状況は、日本だけで起こっているのではない。国際通貨基金(IMF)の4月15日の発表によれば、2020年の世界の財政赤字は前年比較で2.7倍と大幅に膨らむ見通しである。もちろん、世界各国がバラマキを行う予定だからだ。例えば、米国の赤字幅は対GDP比で9.9%となり、リーマンショック直後の09年の7%を上回る見通しである。
ちなみに、先進国の政府債務残高は、1990年代初頭においては対GDP比55%にすぎなかった。それが2020年には122%と歴史的な水準に膨張すると予測されている。
1990年の日本のバブル崩壊後から、オオカミ少年ならぬ経済評論家の「オオカミおじさん」たちが「大変だ!」と叫んでいたことが、30年後に現実になるかもしれない。
イソップ童話は、「少年の嘘にへきえきしていた村人たちが、本当に狼がやってきたときに少年の言葉に耳をかさず食べられてしまった」という結末であることを忘れてはいけない。