『パラサイト』はなぜ映画史上の奇跡なのか?「水」が持つ大きな意味

格差映画はいかにして育ったのか
大島 育宙 プロフィール

「最も個人的なことが最も創造的なものだ」

そうした様々な潮流が合致して生まれた幸運な傑作『パラサイト』。アカデミー賞の受賞スピーチでポン・ジュノ監督は「最も個人的なことが最も創造的なものだ、というスコセッシの言葉を胸に映画を学んできた」と語った。

言うまでもなく『パラサイト』が我々の胸を掴んだ要因の一つは象徴の情報量だ。ポン・ジュノの細部(ディテール)、略して「ポンテール」と呼ばれるほどに、1カット1カット漫画のような絵コンテを直筆で描くのがポン・ジュノ流。

画面に映る全てをコントロールするためには、はみ出した予算をポケットマネーで補填することもザラだという。今作に登場する半地下の家とその周辺の家々は巨大プールの中に造ったセット、高台の豪邸も既存の建物ではなく、本作のために一から建設したと言うから驚きだ。

一度の鑑賞では到底捉えきれない細部がいちいち意味を持ち、忘れた頃に物語に再び現れて来る。劇場を出た後も細部は我々を捉えて離さない。飛び蹴り、家族、階段からの転落、盗み聞き……。「ポン・ジュノと言えば」というモチーフだけでも数え切れないが、私がポン・ジュノと聞いて想起するモチーフは「水」である。

 

「水」がいかに使われているか

『母なる証明』では最も粗暴な男キャラクター・ジンテと「水」のモチーフが密接だ。

彼は湖畔で釣具屋を営んでいる。彼の家に忍び込んだ母(ジンテの母ではない。役名が「母」なのである)は脱出を試みる途中で水の入ったペットボトルを倒してしまう。

水がゆっくり這い、眠るジンテの指先に触れそうになるシークエンスは原初的なサスペンスに溢れていると同時に『パラサイト』での梅シロップと血溜まりのイメージとも重なる。

ジンテがゴルフ場の池から1人でゴルフクラブを拾うシーンもある。彼が母を強請りに訪ねてくるシーンは雨だ。

ジンテは映画序盤に自分の犯した軽犯罪を知的障害のあるトジュンに擦り付けるが、トジュンのもっと大きな容疑の顛末が『パラサイト』での「半地下の家族」と「もう一つの家族」の関係に反復されている。

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