ポン・ジュノ監督〔PHOTO〕gettyimages

『パラサイト』はなぜ映画史上の奇跡なのか?「水」が持つ大きな意味

格差映画はいかにして育ったのか

『パラサイト』とは何だったのか

『パラサイト 半地下の家族』は『殺人の追憶』『母なる証明』で知られるポン・ジュノ監督の7本目の長編映画である。

カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初の最高賞パルムドールを受賞したほか、アカデミー賞でも最多4部門(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)を受賞。中でも作品賞受賞は非英語映画全体で史上初の快挙となった。日本でも本稿執筆時点では、333万人動員、興収45億円突破と、2020年最大のヒットを記録中だ。

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本作はよく「格差・貧困映画」のトレンドの一例として語られる。

確かに全てのカタストロフ終息後のあるキャラクターの症状は『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督、2019年)のアーサーを想起させるし、貧しいキム家の住居の色彩や密度と濃密で哀愁あるコミュニケーションは『万引き家族』(是枝裕和監督、2018年)の柴田家そっくりだ。

豊かな4人家族とその映し鏡のような貧しい4人家族が(鏡が物理的に何を指しているのかは一方の映画のネタバレになってしまうので伏せる)邂逅する構図から『アス』(ジョーダン・ピール監督、2019年)を想起しないほうが難しい。

世界的に第一線の娯楽映画で格差が題材になっている。確かに、わかりやすい。しかし話はそんなに単純ではないのではないか。

 

「主体と客体を隔てる壁の融解」という現象

そもそも「貧富の差」というのはフィクションにおける古典的なモチーフだが、前近代には即ち「身分制度」であり、ある種の思考停止がなされていた。

理不尽なものではあれど、市民革命の機運が高まるまではそれを覆したり疑問視したりするのは荒唐無稽な発想であり、人間のリアルな感情を描き刺激する題材にはなりにくかった。

近代以降「人は皆平等」という建前の下での理不尽な格差についての描写が登場するが、やはり貧者の苦しみを一方的に描くプロレタリアート文学のテイストであった。

こうして物語の歴史を辿っていくと「格差映画」の解像度の上昇は1990年代以降に急激に準備されたのではないかと思い至る。社会的には、新自由主義の暴走とリーマン・ショックによる先進国での中流層の崩壊が大衆の格差意識を醸成した。