3.11 釜石で被災した9歳の少女が復興の中で抱いてきた熱き思い

私には自分の言葉で伝えたいことがある
大友 信彦 プロフィール

ラグビーW杯会場で伝えた防災の大切さ

さあ、ワールドカップ本番に向けて何をしよう?

留伊は、友だちと相談した。そこは現代の高校生だ。昭和に青春を送った世代とは違うアイデアとツールを持っている。LINEやTwitter、Facebook……SNSを駆使して意見を募ると、いろいろなアイデアが泉のごとくわき上がった。

 

「海外から来てくれる人たちのための案内マップを作ろうよ。」「日本語と英語だけじゃ足りない。ワールドカップにはいろんな国からお客さんが来る」「フランス語、スペイン語、あとは……えーと、フィジー語? トンガ語? ジョージア語?」

「そんなの、誰が翻訳するの?」と話していたら、釜石から長野県のインターナショナルスクールに国内留学していた同級生が手を上げた。

「こっちには13カ国から生徒が来ているから、みんなに相談して翻訳するよ!」

歯車はあっちこっちで動き出した。

「ワールドカップでは釜石のスタジアムに1万6000人のお客さんが来るんだって」「え? それって、釜石の人口の半分だよ! そんなにたくさんの人が来て大丈夫?」
「じゃあさ、交通案内の映像を作ってUPしたら、初めて来る人もわかるんじゃないかな?」

そして、留伊たち高校生は、釜石駅から鵜住居スタジアムまでの動線を、自分たちで実際に移動しながらスマホのカメラで撮影し、コメントを載せて、道案内の映像を作った。それを、ワールドカップのシミュレーションとして行われた2019年7月の日本代表対フィジー戦にあわせてyoutubeにアップした。

釜石に来てくれた人たちに、ぜひ訪れてほしい地元のおすすめスポットを紹介する手作りMAPを作っ た(2019 年 3 月、スクラム釜石のチャリティイベントで)
2019 年3月、スクラム釜石のイベントでともに登壇した、釜石出身で女子ラグビー日本代表候補の柏木那月、平野恵里子(前列右から)、元日本代表キャプテンのアンドリュー・マコーミック(後列右)らと

はたして、迎えた当日、留伊たちはたくさんの人たちから感謝の声をかけられた。

「あの動画を作ってくれてありがとう! おかげさまで迷わずにここまでこれたよ」と。

ワールドカップが目の前に近づいてきた。ワールドカップ本番では何をしよう? 留伊はまた仲間と話し合った。

ワールドカップでは日本中からボランティアが集まってくる。たくさんの人たちが、釜石への思いを持ち寄って、世界からやってくる人たちを迎えてくれる。だったらやっぱり、地元の私たちは、私たちだからできることをやろうよ。それは何? 

そして、留伊たちは結論にたどり着いた。私たちがやるべきことは、震災を語り伝えることだよね。

釜石は、震災で大きな被害を受けて、たくさんの人の支援を受けて復興した。ワールドカップで一番伝えたいのは、復興を助けてくれた人たちへの感謝だ。そこにもうひとつ加えるとしたら? 

留伊の頭に浮かんだのは「防災」だった。次の地震はいつ来るかわからない。この釜石かもしれないし、釜石までラグビーを見に来てくれた人が帰る町かもしれない。地震が起きたとき、悲しい思いをする人が一人でも少なくてすむように、できたら一人も出ないですむように。呼びかけるのが私たちの役目だ――。

9月25日。留伊は18歳になって初めて迎える日だった。釜石で行われる初めてのワールドカップの試合。フィジー対ウルグアイ。

ワールドカップ当日、ウルグアイの応援団
ワールドカップ当日、フィジーの応援団
釜石で行われたワースドカップ唯一の試合は、ウルグアイが金星を上げた
 

鵜住居の空はどこまでも青く澄み切っていた。留伊は、釜石高校の同級生2人と一緒に、鵜住居駅の前で、スタジアム横に設置された「あなたも逃げて」と刻まれた追悼碑の前で、震災のとき何が起こったのか、自分たちがどうやって助かったかを、自分たちの言葉で伝えた。

中には涙を流して、「聞かせてくれてありがとう。きょうここで聞けて良かったよ」「帰ったら防災グッズをそろえるね」と言ってくれた人もいた。

2019 年 9 月、ワールドカップのフィジー対ウルグアイの日、防災伝承活動をしていた留伊は世界のメデ ィアから取材を受けた

ワールドカップのもう1試合、10月13日に組まれていたカナダとナミビアの試合は、台風19号の直撃を受けて中止された。キックオフされる予定だった13日12時15分は、台風一過でどこまでも澄み切った青空が広がっていたが、スタジアムに続く道路はいたるところで土砂崩れが起きていた。周囲の住宅には土砂が流れ込んでいた。

そこで、ボランティアとして清掃作業を買って出てくれたのが、試合のために釜石入りしていたカナダ代表の選手たちだった。

カナダ代表の選手たちは、大きな身体と太い腕で、家の中に流れ込んだ土砂をスコップで掻き出し、一輪車に乗せて土砂を運んだ。ぬれて重くなった畳や布団を軽々と、笑顔を浮かべて運び出してくれた。

「試合が中止になったのは残念だけど、カナダのみなさんと、また新しい繋がりができたことは嬉しい」と留伊は思った。

「カナダとナミビアにはまた来てもらって、もう一度、今度こそ試合をしてもらえたらいいね」……誰からともなくそんな声があがった。

「また、新しい目標ができたな」

留伊の心に新たな希望の光が灯った。

その夜は、スタジアム近くの旅館・宝来館に、ボランティア作業を終えたみんなで集まって、日本代表の試合をテレビで応援した。

テレビの向こうで、日本代表は、留伊たちが生で見た2度の試合でどうしても勝てなかったスコットランドを相手にみごとな戦いを演じ、28-21で勝った。テレビの向こう側とこちら側は、ひとつにつながっている気がした。それのくらい嬉しかった。