3.11 釜石で被災した9歳の少女が復興の中で抱いてきた熱き思い

私には自分の言葉で伝えたいことがある
大友 信彦 プロフィール

復興スタジアムでの「キックオフ宣言」

イングランドの視察から帰ると、ロータリークラブは2019年に向けて英会話教室を毎月開いてくれた。ワールドカップを視察してきた中学生たちは誰もがラグビー好きになっていた。

ワールドカップから半年、2016年6月にはスコットランド代表が来日して豊田スタジアムと東京の味の素スタジアムで試合をすると聞くと、誰からともなく「見に行きたいよね」「行けないかな」と声があがった。

 

だが、ロータリークラブは前年のワールドカップ視察などで予算を使っていて、余裕はなかった。

「でも行きたい! 行きたい! 行きたい! 何とかしてください! 何とかなりませんか?」

駄々をこねていると、大人たちが「しょうがないなあ」と言いながら、各方面に連絡を取ってくれた。

ロータリークラブから、ワールドカップ釜石開催を東京から応援していたNPO法人スクラム釜石に相談の声が届き、ワールドカップの日本代表だった廣瀬俊朗さんが代表として立ち上げたばかりの日本ラグビーフットボール選手会が交通費などの支援を、トップリーグの選手たちで構成する構成するキャプテン会議(現・リーダー会議)が会場でのアテンドなどを申し出てくれた。

8人の中学生は味の素スタジアムで行われたスコットランド戦に駆けつけた。

試合前には、ストリートラグビーの体験会に全員で参加した。たくさんのラグビー好きな人たちと一緒に、走ったりボールをつないだりするのは楽しかった。

2016 年 6 月、味の素スタジアムで行われた日本対スコットランド戦を、釜石の中学生 8 人で観戦した

残念ながら日本代表は負けてしまったけれど、試合を戦い終えたばかりの選手たちが、自分たちの座っていたゴール裏のスタンドまでやってきて声をかけてくれた。幸せな時間だった。

自分から希望を口にすれば大人を動かせることもある、未来が開ける可能性があることを、少女たちは学んだ。難しいと思っても、口に出さずに諦める必要はないんだ。

スコットランド戦のあと、日本代表の選手たちが釜石の中学生が陣取るスタンドまで来てくれた。背番号 8はマフィ

でも、かなわない希望もあった。留伊は、ワールドカップでは大会ボランティアとして世界からのお客さんを迎えたいと思っていた。とろこが、大会公式ボランティアの募集が始まり、募集要項を見たとき、留伊は頭をうしろから殴られたような衝撃を覚えた。

ワールドカップのとき、留伊は高校3年生になっている。しかし、高校生は大会ボランティアの応募資格がないというのだ。

世界のみなさんに恩返しをすると誓ったのに、それがかなわない。ワールドカップという大きなイベントで、子供はやっぱり無用なのかな……留伊は無力感に襲われた。

だが、この少女の辞書には絶望という文字はなかった。ワールドカップ組織委員会で釜石会場を担当し、地元の若い世代の声をヒアリングしに訪れていた担当者に、留伊は訴えた。

「私にできることは何かありませんか?」

そして留伊は、2018年8月、ワールドカップ会場となる釜石鵜住居復興スタジアムのオープニングマッチで「キックオフ宣言」を読み上げる大役を任された。

2018年8月19日。釜石鵜住居復興スタジアム。

完成した釜石鵜住居スタジアム。留伊の通っていた鵜住居小学校はこの場所にあった
 

地元の中学生による試合、新日鉄釜石と神戸製鋼のV7戦士たちによるレジェンドOBマッチが終わり、メインゲームの釜石シーウェイブス対ヤマハ発動機ジュビロを前に行われたオープニングセレモニー。半袖の夏用セーラー服姿の留伊がスタジアムのピッチに歩み出る。スタジアムを静寂が包むなか、16歳はゆっくりと口を開く。

「私は、釜石が好きだ。海と山に囲まれた、自然豊かな町だから」

その言葉で始まった「キックオフ宣言」は、オープニングデーのハイライトだった。

2018 年 8 月、釜石鵜住居復興スタジアムのオープニングマッチで読み上げた「キックオフ宣言」は 大きな反響を呼んだ
キックオフ宣言のあと、留伊は国内外の多くのメディアから取材を受けた
オープニング DAY、子供たちは大漁旗を振って応援した

16歳は、小3の冬に経験した出来事と、それからの時間と、これから刻む未来への思いを書き込んだ。それは留伊ひとりの思いではなく、津波で甚大な被害を受けた釜石という土地が、次のステージへと踏み出す決意表明だった。

「このスタジアムは、たくさんの感謝を乗せて、今日、未来に向けて出航する」

そう結び、一礼してピッチを出る留伊に送られる拍手がなりやまない。釜石鵜住居復興スタジアム。その意義と価値は、世界に発信された。

「終わってホッとしました」と笑った留伊は、「緊張しないで楽しめたのが良かった」と言った。