EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史

労働者階級「反乱」の系譜
河野 真太郎 プロフィール

UKIPと「エスタブリッシュメント」批判

そこから、ブレグジットへはどのように歴史がつながるのだろうか。これは非常に難しい問題であり、ここで私が述べるのはあくまでひとつの仮説だ。

ブレグジットは、ここまで述べたような極右と排外主義の系譜だけでは理解不可能である。ブレグジットの台風の目となったUKIP(the UK Independence Party; 英国独立党)を考えてみよう。UKIPの前身である反連邦同盟(the Anti-Federalist League)が設立されたのは1991年である(1993年にUKIPに改名)。

当初、UKIPはイギリスのEU脱退のみを訴える「シングル・イシュー」政党だと考えられて、それほどの人気を得ることはなかった。

風向きが変わったのは、2006年にナイジェル・ファラージが党首となり、白人労働者階級をターゲットに移民問題を強調し始めてからである。とりわけ2014年の、イギリスでのEU議会選挙で24議席を取って躍進し、2015年のイギリス総選挙では議席は1議席にとどまったものの、得票率では12.6%を獲得し、保守党と労働党についで第三位となって衝撃を与えた。2016年に国民投票が行われたのは、人気を獲得したUKIPの圧力によるところが大きかったのである。(UKIPの歴史についてはFord & Goodwinを参照。)

ナイジェル・ファラージ(photo by Gettyimages)

ナイジェル・ファラージのレトリックにおいて重要な言葉のひとつは、「エスタブリッシュメント」であった。エスタブリッシュメントとは、訳せば「支配階級」ということになるが、イギリス文化においては独特の階級的含意のある言葉だ(オーウェン・ジョーンズ『エスタブリッシュメント』を参照)。

かつての、労働者階級がより大きく、自意識的な組織であった時代においては、「われわれとやつら」つまり労働者階級と中・上流階級という対立の意識が力をもった。その際の後者、「やつら」がエスタブリッシュメントである。

ファラージとUKIPにとっての「やつら」とは、EUそのものであり、EUとの結びつきを保とうとするイギリス国内の勢力である。ファラージが人気を得たのは、この「やつら」への敵愾心への共感が集まったためだと考えられる。我々の苦しい生活はやつら(=EUと移民と、その背後にいる「エスタブリッシュメント」)のせいだ、と。

UKIPの右派ポピュリズムと言われるものの内実はこれである。そしてこのポピュリズムにおいては、かつての労働者階級的な、「やつら=エスタブリッシュメント」に対抗する感情が、時代の変化に乗って流用・盗用されたのではないかと考えられる。

では具体的にその時代の変化とは、流用・盗用とは何だっただろうか。