EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史

労働者階級「反乱」の系譜
河野 真太郎 プロフィール

離脱すなわち排外主義?

もちろんこの見方には反論がある。上記のイプソスの調査結果の全体を見ていただくだけでも、例えば年齢による差異は階級による差異よりも重要であると簡単に言うこともできるし、そもそもイプソスが採用している中流と労働者階級の区分が問題だという指摘もできる。現在のイギリスにおいては、「圧迫された中流階級」は自分たちを労働者階級とみなす傾向にあり、そう見ると、離脱の投票はその「圧迫された中流階級」の仕業だ、という見方も出されている(https://blogs.lse.ac.uk/politicsandpolicy/brexit-and-the-squeezed-middle/)。

またもちろん、この量的なデータだけから、質的な側面、つまり労働者階級の投票の動機──排外主義?──まで説明することはできない。

だが、それにもかかわらず、最初に述べた説明の「型」──つまり、排外主義的な労働者階級と多文化主義的な中流階級──は、説得力を失うことがない。おそらくこの「型」は、ブレグジットの説明として語り継がれていくだろう。

もちろんこのような説明、物語は暴力的なものだ。単純な話、例えばカテゴリーC2のうち62%が離脱に投票したとして、それをもって労働者階級が排外主義に流れた、と言ってしまったら、残る38%の経験や感情はどうなってしまうのか?

今回は、このEU離脱問題をめぐってせり出してきたように見える、「排外主義的な労働者階級に対する、リベラルで多文化主義的な中流階級」という典型を解毒し、2つのからまりあった事実を明らかにしていきたい。

ひとつには、イギリス労働者階級には確実に、排外主義に対抗する伝統が存在すること。そして現在のイギリスの多文化主義の部分的な出所は一九八〇年代の新自由主義であり、EU離脱の感情には、単なる反多文化主義だけではなく、同時に反新自由主義の感情もある、という事実である。

そのためにまずは、イギリスの階級と排外主義についての歴史をふり返って、そのような典型がいかなる歴史から生じているのかを論じていきたい。