最近よく聞く「PCR法」って何?基礎の基礎から、その凄さまで解説

実は分子生物学に革命を起こした大発明
ブルーバックス編集部 プロフィール

ウイルスの場合は、もう一手間必要

さて、このPCR法、DNAを無限に増やせそうだが、実際には、30回から35回ぐらいで限界がくる。原料が枯渇するため、倍々ゲームの効率が極端に落ちるからだ。しかしながら、その産物のごく一部を用いてPCRをあらためて何度も行えば、理論的には望むだけの量のDNAを得ることができる。

なお、タンパク質の合成を指示するメッセンジャーRNAや、一部のウイルスが自己複製に使っている核酸などのRNAは、1本鎖なので、2本鎖のDNAのように効率的なPCRを行うことができない。

しかし、最初に逆転写反応でRNAをDNAに置換することによって、RNAもDNAと同様にPCRで増幅することができるようになる。

もうちょっと詳しく〜逆転写酵素による置換DNAの生成〜

1本鎖のRNAを自己増幅とするウイルスを検出する場合は、逆転写酵素を用いて、RNAをDNAへ転換(逆転写)する

【図】逆転写酵素によるPCR

検出方法は、検体の前処理した後に、RNA抽出、RNAをDNAに転換する逆転写反応、DNAの増幅という段階を経る。DNAの増幅段階では、蛍光色素を用いてリアルタイムでモニタリングするリアルタイム・モニタリング技術が用いられている

参考:厚生労働省、農林水産省

とくにメッセンジャーRNAの逆転写酵素が開発されたおかげで、全ゲノムの中でタンパク質をコードしている配列が目印となり、全ゲノムの解明が容易になった。

万能とはいかなくても、やはり偉大な発明

このようにPCR法はきわめて強力であり、これまでDNA量が少なすぎてできななかった実験でも、1~2時間くらいで必要十分な量を確保することができるようになった。さらに、PCR法のすばらしいところは、膨大なDNA分子の中から、2つのプライマーと一致する配列だけを特異的に探し出して、増幅できることだ。

たまたま1つのプライマーが一致することはあっても、もう1つのプライマーが一致して同じ鎖長のPCR産物が得られることは、似た遺伝子(重複遺伝子)以外には考えにくい。たとえば、たくさんの微生物のDNAの中にごく微量に含まれているヒトのDNAを特異的に増幅することも可能なのだ。

PCR法は、その意味としては短時間で大量のDNAの増幅を可能にしたという、言ってしまえば「効率」に関わる発明である。しかし、その効果は本質的であり、決定的なものだった。

PCR法なくして、現在の分子生物学は成り立たず、膨大な生物のゲノム情報の蓄積もありえなかった。PCR法によって人類は初めてDNAを操れるようになり、時空を超えて生命の起源に迫ることも可能になったのである。

PCR法は、現在では広く用いられている方法です。そして、その方法によって解明された生命の秘密は、計り知れません。
今回の記事でご紹介した、梅津氏の『DNA鑑定』では、PCR法における特許問題や鑑定方法の技術史のほかに、縄文人の起源や幻の魚クニマスなど生物にまつわる謎、DNA鑑定と犯罪など、DNAの鑑定から見えてくるおもしろ話満載です。「PCR法ってなんだろう?」という疑問をきっかけに、DNAから見えてくる様々な秘密を探してみてはいかがでしょうか?

  • 本記事は、ブルーバックス『DNA鑑定』より、PCR法の基本についての解説をもとに作成しました。

DNA鑑定 犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで

  • 梅津 和夫 著
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圧倒的な識別能力をもつDNA鑑定に魅せられて、戦没者の遺骨から自身の排泄物まで、あらゆるものを鑑定してきた著者がやさしく解き明かす、現代人が知っておくべき「教養」としてのDNA鑑定。それは時空を超えて生命の神秘を知る「扉」でもある。

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