最近よく聞く「PCR法」って何?基礎の基礎から、その凄さまで解説

実は分子生物学に革命を起こした大発明
ブルーバックス編集部 プロフィール

倍々ゲームでDNAが増える

では、簡単にPCR法の原理を説明しよう。

用意するものとしては、増やしたい配列を含む2本鎖のDNA、4種類の塩基、(A、T、G、C)、耐熱性をもつDNAポリメラーゼ、そして1本鎖の「プライマー」1組が必須である。プライマーとは、増幅したい配列と対になる配列(Aに対してT、Gに対してCのような配列で相補的配列という)をもつ、人工的につくられた20塩基ほどの鎖だ。

【図】相補的配列
  20塩基ほどある相補的配列を部分的に見た模式図。AとT、GとCのように対になって、塩基が配列される。青の点線で囲った部分が増幅したい配列とすると、それと対になるような配列(赤の点線で囲った部分)を人工的に作ったものをプライマーという

これらをPCRの反応チューブに入れて、あとはチューブの温度をコントロールする機器さえあれば、お好きなDNAの配列を、望む量だけ増幅することができる。次の3つのステップを30回程度繰り返すだけで、DNAは倍々に増えていくのである。

PCR法の3ステップ

  1. 材料を入れた反応チューブを約95℃ににまで熱する。すると、2本鎖のDNAが変性して、1本ずつの鎖になる。
  2. チューブを60℃付近まで冷ますと、プライマーが1本鎖になったそれぞれのDNAの塩基配列と相補的に結合する。
  3. チューブを再び約72℃まで熱すると、1本鎖のDNAに結合したそれぞれのプライマーにDNAポリメラーゼの働きによって4種類の核酸塩基がプライマーの配列と相補的につながって、2本鎖のDNAが形成される。
【写真】材料を反応チューブに入れる
  反応チューブに入れて熱した後に冷ます Photo by Getty Images

補足すると、最初に2本鎖DNAが熱で変性してできた2つの1本鎖DNAは、温度の低下にしたがって本来の2本鎖に戻ろうとする。しかし、チューブには過剰にプライマーが入っていて相補的な配列を探しているため、1本鎖DNAどうしの結合よりも優先的に、プライマーが1本鎖DNAを結合する。もしも邪魔なDNAどうしの結合があったらそれを剥がしながら、鎖がある限りプライマーとの結合が進行する。

結合したプライマーとの末端では、DNAポリメラーゼの働きによって、その次の塩基と相補的な塩基がさらに次々とつながっていく。

このPCR法の凄いところは、逆向きのプライマーも同時に入れるというアイデアにあった。これにより二方向から同時に合成することが可能になったのだ。この2つの反応はかち合うことはない。

【図】PCR法の原理
  PCR法の原理。拡大画像はこちら (『DNA鑑定』の図をもとに作成)

上の図に、PCR法の3段階を経て1回目の終了段階までを示した。このような原理で、ターゲットとなる2本鎖のDNAが1本あれば、DNA自体は倍々に増えていく。ただし、目的とする2本鎖の配列は、3回目のPCRが終わった段階で初めてできる(両端はプライマーの配列になっている)。

もしDNAが1本鎖であったら、PCR法は成立しなかった。30回の反応でもDNAは30倍にしか増えないからである。ところが2本鎖であるために、DNAは倍々に増えていく。仮に30回反応すれば、2の30乗という、とてつもない数になる。