photo by gettyimages

最近よく聞く「PCR法」って何?基礎の基礎から、その凄さまで解説

実は分子生物学に革命を起こした大発明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行で、感染の有無を調べる方法としてPCR法という検査方法を耳にするようになりました。

このPCR検査、どういう検査法だかご存知ですか?

なんでも、口や鼻にある粘膜からとった検体を使って、ウイルスのDNAにある遺伝子の一部を大量に複製させることで、とても小さいウイルスの存在をはっきりさせる、ということですが、遺伝子の複製ってどうやってやるのでしょう? 

DNAや遺伝子の検査や研究は、ウイルス検査以外にも、分子生物学の分野で広く行われています。ここでは、法医学の分野で、長い間DNAを鑑定してきた山形大学医学部の梅津和夫氏の本『DNA鑑定』から、PCR法のしくみを見てみましょう。

そもそもDNAとか遺伝子ってどう違うの?

まず、何かと混同されがちな「DNA」「遺伝子」「染色体」「ゲノム」といった用語を整理しておこう。

頬の内側や歯茎などを採取用の棒でこすって、集めた細胞を、染色用の液(塩基性染色液)で浸してから顕微鏡で覗いてみよう。すると、細胞の中に必ず1個ある核の中、何かが染色液に染まっているのがわかる。これがDNAである。

DNAは通常、細い糸のようになって「ヒストン」というタンパク質に巻きついている。これをクロマチン構造という。

クロマチン構造が棒状になったかたまりが「染色体」である。染色体は通常の細胞では見ることができず、細胞分裂(組織の細胞が分裂する体細胞分裂や、生殖細胞が分裂する減数分裂)のときのみ出現し、このときは染色液によく染まるのでこの名がある。

さらに、細い糸状のDNAには、ところどころに「遺伝子」がある。親から子へと受け継がれるさまざまな形質は、DNA内でタンパク質をコードしている遺伝子に書き込まれた設計図をもとにしてつくられている。この設計図、すなわち遺伝情報は、遺伝子の中でシトシン(C)グアニン(G)チミン(T)アデニン(A)の4種類の塩基がどう並んでいるか(塩基配列)によって規定されている。

そして、生物のDNAが持っている遺伝情報のことを「ゲノム」という。いわば、DNAが形のある「形質」なら、ゲノムとは形のない「情報」の総体なのである。

知っているつもり(!?)のDNAと染色体、遺伝子、ゲノム

DNA
細胞にある糸状のものが巻きついた形をしたもの。遺伝子を含む
染色体
DNAが巻きついている「クロマチン構造」が棒状に集まったもの。細胞分裂時に現れる
遺伝子
DNA中にある遺伝情報が書き込まれた、生命の設計図の部分
ゲノム
設計図に書き込まれている遺伝情報
【図】DNA、染色体、遺伝子の関係と4つの塩基からなるDNAの構造
  DNA、染色体、遺伝子の関係と、4つの塩基からなるDNAの構造(『DNA鑑定』の図をもとに作成)

このように、細胞の核の中にはたくさんのDNAが詰まっている。

なお、「DNA」とは、生命の設計図であるデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の略語である。その基本構造は、地球上に存在するすべての生物に共通である。

「PCR法」という大革命

かつて、特定のDNAの塩基配列を多量に必要とするとき、大腸菌の細胞のうち、核の外にあるDNAであるプラスミドなどの力を借りて、特定の塩基配列を増やす方法が取られていた。しかしこれはかなり面倒な作業がつきまとう方法であった。

1983年に、米国の生化学者キャリー・マリスによって、「PCR法」が発明された。それは分子生物学にとって大革命ともいえた。

【写真】キャリー・マリス
  PCR法を発明したキャリー・マリス(Kary Mullis、1945-2019)。1993年にノーベル化学賞を受賞。大麻やLSDの使用を公言するなど数々の奇行でも知られた。2019年8月に逝去 Photo by Getty Images

PCRとは、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(Polymerase chain reaction)の頭文字をとった名称である。

日本語に訳せば、「ポリメラーゼ連鎖反応」ということになる。「ポリメラーゼ」とは、単一の塩基をつなぎあわせて塩基の長い鎖をつくる酵素で、生物の体内ではさまざまなところに存在するが、そのうちDNAの塩基をつなぎあわせて長い鎖をつくるものをDNAポリメラーゼという。

PCR法とは、このDNAポリメラーゼを用いて、指定したDNAを増幅させて、短時間で同じ配列のコピーを大量につくる方法である。