──がん細胞には「鬼の目」があるそうですね。
細胞にはDNAを包む核があります。この核の中にある小さな目のような形をしたものが核小体です。この核小体が悪性のがんでは「鬼の目」のように大きくなっているのを、1896年にイタリアの研究者が発見しました。
その後の研究により、核小体が大きくなるとリボソームが大量に作られてタンパク質合成が増進する結果、がん細胞が異常な速さで増殖することがわかっています。
──核小体ではいったい何が行われているのですか。
タンパク質を合成するリボソームが作られています。リボソームは「タンパク質製造工場」のようなものです。がん細胞が増えるにはタンパク質、核酸、脂質が必要ですが、なかでも細胞の7割ぐらいを占めるタンパク質が重要なのです。
リボソームが多ければ多いほど、がんは増殖に必要なタンパク質を手に入れられる。だからがんは核小体を大きくしたり数を増やして、リボソームすなわちタンパク質工場の製造能力を高めるのです。通常は1つの細胞に1つの核小体しかないのですが、がん細胞によって7つまで核小体が増えたケースも見つかっています。
──なぜがんは勝手に、核小体を大きくしたり増やせたりするのでしょうか。
がんは、人に本来備わっているシステムを巧妙に活用して増殖します。核小体ががんに利用されているのはわかっていましたが、大きくなるメカニズムは不明でした。
そこで我々は、細胞内のエネルギー状態の変化に注目したのです。細胞のエネルギー分子はATP(アデノシン3リン酸)が知られていますが、ほかにもいろいろなものがあります。
今回、我々が発見したのは、がん細胞においてGTP(グアノシン3リン酸)が果たしている特異な役割です。