落合陽一の「スタートアップ」をAmazon幹部が極秘訪問した理由

2人が語った「クラウドと起業」の未来
西田 宗千佳 プロフィール

「若い起業家が難題を解決する姿」を見るために

ピクシーダストテクノロジーズで収録されたのは、主に2点だ。

1.同社が開発している下記プロダクトの、デモンストレーション見学シーン

「xMove(クロスムーブ、商標登録出願中)」:車いすの自動走行を実現するソリューション

「SOUND HUG(サウンドハグ)」:抱きかかえることで聴覚の有無にかかわらず音楽を楽しむことができるデバイス

「Pixie Dust(ピクシーダスト)」:社名にもなっている超⾳波フェーズドアレイを⽤いた3次元⾳響浮遊技術

「Holographic Whisper(ホログラフィックウィスパー)」:超⾳波フェーズドアレイ型超指向性スピーカー

2.落合氏とボーガス氏による対談

その具体的な内容は、実際に本編が公開されるまでのお楽しみということにしよう。ここでは、冒頭に掲げた2つの疑問について、掘り下げていく。

ボーガス氏は多忙な人物だ。そんな彼がここ数年、精力的に世界を移動して「Now Go Build」のような番組を自ら制作している。その理由は何だろうか?

ボーガス氏はこう話す。

「スタートアップ企業は、社会が抱える多くの課題を解決できます。私の旅の中で、本当に難しい問題を解決している多くのスタートアップに出会いました。なにより、若い起業家が難しい課題を解決しようとしている姿を見るのが本当に楽しい。感動的です。

一方で、スタートアップの多くは、ビジネス上の課題を抱えることがあります。私は、テクノロジー的に彼らを支えるのがAWSの仕事だと思っています。また、彼らのような企業に、より多くの露出機会を与えることも重要です。その点においても、私たちがお役に立てるのではないか、と考えているのです」

日本が抱える「最大の課題」

このような狙いに基づき、「Now Go Build」の取材先として選ばれるのは、その国・その地域が直面する課題を解決する企業が中心だ。日本の場合、ピクシーダストテクノロジーズをはじめとする3社が選ばれた理由は、「高齢化対策」だ。ボーガス氏が続ける。

日本の高齢化の推移と将来の推計 Chart by 内閣府

「高齢化は、日本が抱えている最大の課題だと理解しています。2025年には、3人に1人が65歳以上になり、5人に1人が75歳以上になると推定されています。そうなると、介護者が不足する。若い人たちだけに頼ることはできません」

そこで、3つの異なる会社に注目したのだという。

「MICINは、データ分析を使って認知症を予測したり、追跡したりしています。アルツハイマー病だけでなく、産後うつのような症状についても応用可能な技術です。Z-Worksは、介護のための支援システムを開発しています。見守りセンサーを使って、異変に素早く対応するテクノロジーをもっています。

 

そして、落合さんのピクシーダストテクノロジーズは、きわめて特殊な車いすを開発していますよね。彼らに会うのがとても楽しみです」(ボーガス氏)

「Amazonで買えるもの」だけでものづくり

ピクシーダストテクノロジーズが開発する自動運転車いす「xMove」は、介護福祉施設の中で、介護士の手を借りずにスムーズな移動を実現することを目的としている。

ボタンやスマートフォンからの操作で好きな場所に移動できるのだが、単に車いすが命令を認識するだけではない。施設内にある監視カメラなどの各種センサーと連動することで、より安全性の高い移動を可能にする。

取材当日は、茨城県つくばみらい市にあるピクシーダストテクノロジーズの研究開発拠点「テクノトープ」をボーガス氏が訪れ、実際に同氏がxMoveに乗って移動する体験もしている。しかし、自動運転車いすのxMoveとクラウドサービスのAWSに、どんな関係があるのだろう?

xMoveに乗るボーガス氏

実は、xMoveが移動するために使う周辺認識や搭乗者の状態推定にAWSが使われているのだ。AWSをインフラとして用いつつ、そこにピクシーダストテクノロジーズ社独自の技術を加えることで同社の自動運転車いすは成り立っている。

汎用のものに独自の技術を組み合わせるこの手法は、xMoveの開発ポリシーそのものでもある。落合氏は、次のように語る。

「xMoveは、介護などの現場で使われている市販の車いすに、弊社の自動運転技術を組み込んだものです。そもそもの開発動機が、『Amazonで買えるようなものだけでつくろう』というものでした。リプレーサブル(置き換え可能)で、マーケットにある製品でつくることが重要なのです」

落合氏がこだわる「秘伝のタレ」とは?

落合氏のものづくりには、こだわりがある。キーワードは、“秘伝のタレ”だ。

「今の技術環境ではコモディティのハードウエアのリソースは、どこでも入手可能になりつつあります。しかし、そこに“秘伝のタレ”を追加する。“秘伝のタレ”は、つくるものによって変わります。

なにを組み合わせるかが『タレ』のときもあれば、ユーザーインターフェースが『タレ』のときもある。アルゴリズムが『タレ』の場合もあります。トライアンドエラーを繰り返して“秘伝のタレ”に仕上げていくわけです。

おそらく、自動車のような『ニッチじゃない』自動運転技術のソースは、プラットフォーム化することになればやがて1つか2つに絞られていくかもしれない。しかしその周囲に、細かく、ベンチャーが取り組むべきニッチがある。なかでもローカルで伸びしろがありそうなのが、『介護』だと思っています。介護では特に、対人・自動化を含めユーザーインターフェースが重要になるでしょう」(落合氏)