日本人は知らない、本物のリーダーが抱くこの国への「危機感の正体」

伊藤忠元会長・丹羽宇一郎氏が語る
丹羽 宇一郎 プロフィール

大赤字を出したとき、役員のほぼ全員が株主最大、最優先の時代で、「それでも配当を出さなければ株価が下がってしまう」と言う。「やむなし」という心境になったことがあります。

ところが、「社長、そんなことをすると、将来、会社の名を汚します」と言った役員がいました。無理を重ね、配当を出せば株価は下がらないが、新規投資が滞り、長期的に業績が低迷すると言うのです。

結局、私は役員の中で一人だけ配当に反対した彼の意見を採用した。おかげで会社はその後、成長を続けることができました。耳の痛いことを言う部下こそが、会社を救う存在なのです。

―諫言の士がいないと組織は力を失うということでしょうか。

はい。それは企業だけではありません。政府の後手に回る新型コロナウイルス対策を見てもそう思います。

日本の問題は明治以来、変わりません。調和を意識するあまり、社内の対立が目立たないこと。そのためどの組織も権限と責任の所在があいまいです。

有事の際でも、誰が指揮を執り、誰が責任を取るかが明確ではありません。連帯責任などと甘いことを言っているから、不祥事が後を絶たないのです。社長には大きな権限を使って、その責任をまっとうする気概が必要です。

ですから若いリーダーには知識と教養をどんどん身につけてほしい。世界のエリートは寸暇を惜しんで勉強しています。私も若いころから彼らの刺激を受けてきました。

高齢化というけれども、70代にも教養力のある逸材がたくさんいるはずです。最先端のビジネスについては若い人ほど感度が高いが、それを社会的に見合う事業とするようにアドバイスできるのは、彼らのような高齢者かもしれません。

そうした意味を込めて本書を書いたのですが、これからも若いリーダーに社長とは何なのかを、諸先輩を思い出しながら説いていきたいです。(取材・文/藤岡雅)

『週刊現代』2020年4月4日号より