果てしなく広がる海。本の世界もまたしかりで、自然や生物、文化、歴史、哲学、冒険、あらゆる事象につながっていく。深い深い「本の海」へ、潜ってみましょう。

小林エリカ「海と戦い」

『影との戦い ゲド戦記1』
アーシュラ・K. ル=グウィン/著 清水真砂子/訳

架空の世界の話にもかかわらず、多島海のディテールが民俗学的調査の様相を秘めているのが凄い。主人公らがさいはての海へと漕ぎ出してゆく様は、大航海時代、初めて大海へ出てゆく人たちの気持ちを追体験するよう。海を舞台に光と闇の対峙する人間の心の葛藤が際立っています。(岩波書店)


『深海からの声 U ボート234 号と友永英夫海軍技術中佐』
富永孝子/著

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツから潜水艦「灰色の狼」Uボートに乗り、日本に向かった日本軍人を追ったノンフィクション。極秘の積み荷は日本の原子爆弾開発に必要なウラン235。敗戦色が強まる中、それぞれの想いを胸に海を進む様は手に汗握るし、日本人の家族、ドイツ人の乗組員、積み荷の行方などを粘り強く追う作者の姿勢にも胸打たれます。(新評論)


『きみはうみ』
西加奈子/著

深海の闇から始まって人生のことまでを考えさせられる絵本。あとがきにある「日陰だって、真っ暗だって、それがその人にとって大切な場所であったなら、絶対に美しい。もちろん、光があたる場所も。とにかく誰かがそこで生きている、そのすべてが美しいのだ。」が真理を宿していて、海は、人生は、いつもキラキラしているだけが美しいわけじゃないことに共感します。(スイッチパブリッシング)

【PROFILE】
小林エリカ・作家、漫画家

こばやし・えりか/1978年東京都生まれ。『マダム・キュリーと朝食を』で芥川賞候補に。コミック『光の子ども3』(リトルモア)が発売中。小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)を10月末に刊行予定。

【my beloved ocean】
バルト海

【my ocean memory】
琥珀がとれるバルト海周辺の国々を船で周った。デンマークのコペンハーゲンからロシア、エストニア、ノルウェーなど周遊してみたら、海というものがこれまでも、そして今でも貿易や戦争にどれほど重要なのかがわかり面白かった。地球の上ではどんな場所も海を介して繋がっているという感覚を、肌身をもって感じられた。

幅 允孝
「海辺のいい女」

『海辺の生と死』
島尾ミホ/著

作家・島尾敏雄の妻で作家の島尾ミホによるエッセイ。生まれ育った加計呂麻島の自然や暮らし、そして特攻隊長として島に赴任した敏雄との出会い。南方の離島という環境で育った者にしかたどり着けない心境があるとしたら、こういうものかと思う。じっとりと湿気を含んだ海辺の空気が漂っているのもいい。(中央公論新社)


『海からの贈物』
アン・モロウ・リンドバーグ/著 吉田健一/訳

海辺で深く考えるのは難しい。それは居心地が良すぎるから。大西洋横断単独無着陸飛行に成功したチャールズ・リンドバーグの妻である著書が海辺で思考したことを記した本書は、その考えを覆してくれる。「たゆたう」からこそわかること、流動し続ける海岸が持つ原始的な衝動から生まれるアイデア。海で考えるのも、ときにはいいかもしれない。(新潮社)


『島暮らしの記録』
トーベ・ヤンソン/著 冨原眞弓/訳

ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンが一時期を過ごした夏小屋での記録。海に囲まれた島に母と親友、猫と暮らすヤンソン。男手がない中でも離島暮らしをサバイブする術や道具について詳細に書かれていて、ファンタジーではない、リアルな島暮らしの様子がわかって興味をそそる。ムーミンの世界からは想像できないヤンソンのたくましさがまた意外で、面白い。(筑摩書房)

【PROFILE】
幅 允孝・ブックディレクター

はば・よしたか/1976年愛知県生まれ。BACH代表。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテルなどでライブラリーの制作を行う。最近の仕事に札幌市図書・情報館の立ち上げなど。

【my beloved ocean】
マルタ島

【my ocean memory】
地中海の中央あたりあるマルタ共和国を旅したときのこと。コミノ島のブルー・ラグーンは今まで見たなかで最高に美しい海でした。泳ぐ準備をして行かなかったので、同行者もみんなパンツ一丁になって海へドボン。「世界には飛び込まざるを得ない海がある」ということを、身をもって知った、すてきな体験でした。