坂本美雨
「海の叡智に触れること」

『森と氷河と鯨』
星野道夫/著

アラスカのインディアンに伝わる“ワタリガラスの神話”の秘密を探る旅を記した星野道夫のエッセイ。ひとりのインディアン・ボブと出会い、小さな手がかりを頼りに旅をするなかで、かつて海とクジラと懸命に共存していた人々の気配、消え行く歴史を目の当たりにする。自分のルーツとなった人々の生きていた息吹に触れたい、そんな星野さんの想いが伝わってくるよう。(文藝春秋)


『ひろがるうみ 海遊館のほん』
濱田英明/著 海遊館/監

海の生物を普段近くで見ることはなかなかないけれど、この写真集をめくれば一気に彼らの世界を旅できる。写真家・濱田英明さんによる水族館「海遊館」の写真集。生き物の躍動感、肌の質感、水のしぶき、青のグラデーションのなかで、自分も溶け合える気がする。(二見書房)


『海からの贈物』
アン・モロウ・リンドバーグ/著 吉田健一/訳

飛行家のリンドバーグの妻、5人の子供の母であり女性飛行家でもあった著者が大切にしていた海辺での時間。しばし家庭から離れ、一人の時間のなかで考えたこと。忙しい生活に追われて、多くのことを達成しているようで、どれだけのことを見失っているだろう。なんの役割もないひとりの人間に戻って、心の中に耳をすますこと。その大切さを教えてもらいました。(新潮社)

【PROFILE】
坂本美雨・ミュージシャン

さかもと・みう/1980年東京都生まれ。97年1月、Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義で「The Other Side of Love」を歌い、デビュー。最新アルバムは「Sing with me Ⅱ」(坂本美雨 with CANTUS)。

【my beloved ocean】
石垣島、カナダ・ソルトスプリング島周辺の海、森戸海岸

【my ocean memory】
石垣島に行った時、朝、誰もいない海辺を散歩していると、3歳の娘が突然水着を脱ぎ、すっぽんぽんになって海に入って行きました。大自然のなにかと共鳴しているような……。生まれて初めて見た娘の「野性」という感じがして、心から感動しました。ああ、これが彼女の本当の姿なんだと、神々しく見えました。

 

星野概念
「観念的な海を感じさせてくれる本」

『海』
加古里子/著

海の生態系の多様さ、複雑さを精緻に描き、歴史についても思いを馳せさせてくれる絵本。「うみを しらべて いつのまにか ちきゅうを ぐるりと まわって しまいました。そうです、うみを しらべることは ちきゅうを しらべることなんですね。」という一文は、海は広いな大きいな、そして未知だなと感じさせてくれます。(福音館書店)


『断片的なものの社会学』
岸政彦/著

人間界も海のように果てしない。社会学者である作者は前書きで「できごとの無意味さ」に惹かれると書いています。考えてみれば、人の日常は物語として抽出されるまでもないできごとがほとんどです。それはきっと海中の生物が誰にも知られずに生きているのと変わりありません。「ただそこにあるものを集めた作品」というのは稀有だし、海を感じます。(朝日出版社)


『もやしもん』
石川雅之/著

肉眼で微生物を見られる農業大学生が主人公のマンガ。微生物の生態を想像する時、深い海のイメージが重なります。見聞きしたことのない生物が静かに漂っている。その営みは恐らく原始的で、忖度とか人間が悩まされるまどろっこしさはありません。生きるために活動する、以上。なんて潔いのでしょう。海の生物も微生物も、自由だ!(講談社)

【PROFILE】
星野概念・精神科医

ほしの・がいねん/1978年東京都生まれ。総合病院の精神科医として勤務する傍ら音楽活動も行う。ウェブや雑誌などで連載を持つなど、文筆家としても活躍。いとうせいこうとの共著に『ラブという薬』(リトル・モア)。

【my beloved ocean】
江の島の西浜と、江の島まで渡って裏の方にある海

【my ocean memory】
大学生の時、江の島によく行っていました。ふさぎがちに過ごしていたこともあり、夏の海は楽しそうすぎて嫌いでした。寒い季節の夕方に海に行き、誰もいない波打ち際で波の音を聞きながらぼーっとしているのが好きでした。単調で深い波の音と、夕方が夜に飲まれていく空の感じ、広すぎる海に癒やされていたような気がします。


●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)
Text & Edit:Yuriko Kobayashi