近年、日本ではコーチや監督の選手に対するパワハラが大問題となっている。2018年は、女子レスリングにおけるパワハラ問題、日本大学のアメリカンフットボール部の悪質タックル問題、そして日本大学のチアリーディング部と日本体操協会におけるパワハラ問題が大きな波紋を起こした。

特に、体操女子の宮川紗江選手が速見佑斗前コーチから暴力を受けながらも、今後も一緒にやっていきたいと語ったことは印象的だった。多くのスポーツにおいてスパルタ指導はよくないと考えられている一方、選手本人や家族も認めているケースがあり、スパルタ指導とパワハラの区別をつけるのは非常に難しい。

近日公開予定のドキュメンタリー映画『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』は、ロシアの新体操選手マルガリータ・マムーンが2016年のリオ五輪で金メダルを獲得するまでの道のりをたどった作品だ。劇中、鬼コーチたちがマムーンをシゴキまくる様子は映画『セッション』を彷彿とさせる。

一流の選手を育てるためにはスパルタ指導は避けられないのか。世界中の映画祭で数々の賞を受賞した監督のマルタ・プルスに話を聞いた。

個人競技はスパルタになりやすい

『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』より

――なぜロシア新体操のオリンピック選手を題材にしようと思ったのでしょうか?

マルタ・プルス監督(以下、プルス監督):ロシアでは政治とプロパガンダのためにスポーツ競技が重要な役割を担っています。オリンピック選手の強さは国の強さを象徴している。ロシアの新体操選手は、全ロシア連邦新体操総裁を務めるイリーナ・ヴィネルの手に委ねられています。

彼女は伝説的な指導者で、かつては素晴らしい新体操選手でした。そしていまはロシア一の富豪を夫にもち、権力・財力をもっている。そんな彼女を通して、アスリートの世界の裏側が見えるのではないかと思いました。