1918年、スペイン風邪の犠牲者たち Photo by Getty Images

「怪物」かも…新型コロナと新型インフル「不気味な共通点」があった

なぜパンデミックは起きるのか

新型コロナウイルスが猛威を振るっている。

2019年12月に中国・武漢でアウトブレイクした新型ウイルスはまたたく間に伝播し、4月13日時点で全世界で185万2807人が感染、死者は11万人を突破した。日本国内でも3月下旬から急激に感染者数が増加、4月7日には緊急事態宣言が発令されたが、もはやオーバーシュート(爆発的な感染拡大)は避けられない状況になりつつある。

それにしても、新型コロナウイルスはなぜパンデミック(世界的大流行)を引き起こしたのか? そもそもコロナウイルスは、いわゆる「風邪症候群」の原因ウイルスのひとつで、風邪の約15%はコロナウイルスによって発症する。つまり、以前から存在するごくありふれたウイルスだったのだ。そんな平凡なウイルスが突如、凶暴化したのはなぜなのか?

その謎を解く鍵は、「種の壁」を越えるインフルエンザウイルスに隠されていた。

いま一冊の本が注目を集めている。

『インフルエンザパンデミック』。著者は、インフルエンザウイルスの世界的な研究者として知られる河岡義裕・東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野教授と同研究室の堀本研子助教だ。21世紀初のパンデミックを引き起こした新型インフルエンザの感染機構に深く切り込んだ一冊だ。

椛島健治・京都大学大学院医学研究科皮膚科教授は自身のブログで、同書を次のように紹介している。

2009年に執筆された本ですが、内容は全く色あせておらず、むしろ、コロナと対峙する際に、参考になることが多数見つかります。

パンデミックというと未知なる体験のように思われがちですが、人類は、1918年のスペイン風邪や2009年の新型インフルエンザなどを既に経験しているので、その時の歴史を学び、経験を生かすべきです。
この書籍の中で、

1. 新型ウイルスの何が怖いのか
2. どのように変異が生まれるのか
3. どの程度PCR検査をするべきなのか
4. 感染者数に一喜一憂するな

などの、現在私たちが直面している問題の解決策につながる洞察が深く掘り下げられています。

実は、パンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスとコロナウイルスには数多くの共通点がある。

いずれも私たちが「風邪」と呼ぶ「風邪症候群」を引き起こす原因ウイルスで、その遺伝物質はRNAだ。本来、インフルエンザ治療薬として開発された「アビガン」(一般名:ファビピラビル)がコロナウイルスにも有効とみられているのは、この薬がRNAウイルスに共通する感染機構を標的にしているからにほかならない。

中国・武漢で新型コロナウイルスが発生した直後から、河岡教授は、自身が率いる東京大学医科学研究所と米国・ウィスコンシン大学のスタッフを総動員して、新型コロナウイルスの研究に取り組んでいる。その様子は、2020年4月12日の『情熱大陸』でも取り上げられて、大きな反響を読んだ。

動物から人へ「種の壁」を超える

コロナウイルスもインフルエンザウイルスも毎年変異を繰り返すが、通常は、その病原性や感染力はあまり変化しない。

ところが、数十年から百年に1回、まれに凶暴な新型ウイルスが誕生し、パンデミックを引き起こす。これは、インフルエンザウイルスもコロナウイルスも幅広い動物種が感染する「人獣共通感染症ウイルス」であることに関係している(図1)。

異なる生物種のウイルスがひとつの宿主に同時に感染することで、遺伝子再集合を引き起こし、これまでとはまったく違った性質を持った怪物ウイルスが誕生するのだ。

インフルエンザでは豚、コロナウイルスではコウモリやラクダなど異なる生物種が介在して、新型ウイルスが誕生することが知られている。こうした生物たちが新型ウイルスを育む生物工場として機能しているのだ。

ただし、「種の壁」を超えた感染はめったに起きない。ウイルスが宿主の受容体タンパク質に取り付くためには、ウイルス遺伝子の大幅な変異が必要だからだ。

2種類の「変異」

では、パンデミックを生み出すウイルスの遺伝変異はどのようなメカニズムで起きるのだろうか。

ウイルスには大きく分けて2種類の変異がある。車のモデルチェンジにたとえるなら、「マイナーモデルチェンジ型の変異」と「フルモデルチェンジ型の変異」といえばよいだろうか。

マイナーモデルチェンジ型変異のことを「抗原の連続変異」(抗原の小変異、またはアンティジェニック・ドリフト、図2)という。

新車のマイナーチェンジでは、車のエンジンやシャーシーなどの骨格部品はそのまま流用して、オプション部品を付けたり、塗装色を変えたりする。

これと同様に、抗原の連続変異では、大部分のタンパク質の構造は以前と変わらないが、少しだけアミノ酸の配列が違うタンパク質が生まれる。

私たちがウイルスに感染すると、体内に抗体タンパク質ができるので、次にウイルスが入ってきても獲得免疫が働き、攻撃してくれる。ところが、抗原の連続変異で生まれた「昔と少しだけ形が違う」抗原タンパク質を持ったウイルスが侵入すると、用意した抗体タンパク質では十分に対処できない。