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働くのをやめて「悠々自適」になり、テレビの前から動けなくなった男性

人生の最後に「引きこもり」に…

退職した途端の悲劇

40年近く続けてきた、毎朝、満員電車に揺られる生活が、ついに終わりを迎えた。思う存分趣味を楽しみたい、行きたかった場所に旅行に出かけたい、長年会えていない友人にも会いたい。そのために会社の再雇用も申し込まず、もちろんアルバイトやパートなどもってのほか――。そんな道を選ぶと、ドツボにはまりかねない。

 

埼玉県在住の木村正司さん(仮名・62歳)は、新卒で中堅商社に入社し、長年繊維畑を歩んだ。

2人の子どもは独立し、いまは妻と二人で暮らしている。2年前に定年退職した際、会社の再雇用は申し込まなかった。

「趣味や旅行を存分に楽しもうと意気込んでいたんです。ただ、最初の数ヵ月は友人と飲んだり、元同僚とゴルフをしたりと楽しんでいたんですが、次第に手帳の予定が埋まらなくなった。気づけば誰からも連絡が来なくなり、ずっと家で過ごすようになりました」

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妻は友人と出掛けたり、カルチャースクールに通ったりと充実した生活を送っているように見える。毎日居間でテレビを見ていると、妻から「何かやりたいこととかないの?」とバカにしたように言われた。

「家にいても気詰まりなのですが、出掛ける気にはなれませんでした。毎日、誰からも連絡は来ないし、病院以外では名前も呼ばれない。だんだん、昔の嫌な思い出が蘇ったり、『自分の人生はなんだったんだ』という思いばかりに囚われるようになりました」(木村さん)

厚生労働省の'17年の調査によれば、躁うつ病を含む気分障害で治療を受けた約12万人の患者のうち、4割は65歳以上で、実に約4万2000人に上る。その多くが定年後に生きる意義が見いだせなくなる「定年うつ」と見られ、木村さんもその一人だった可能性が高い。