いま、30代の人があっけなく「ひきこもり」化する原因が見えてきた

「学校の掟」が苦しめる
佐藤 優 プロフィール

「誰もが無限の可能性を秘めている」という幻想

人間に限界があることを認識し、社会性を獲得するために「去勢」は不可欠だ。しかし、世の中には「去勢」に抗う人がいる。

評者は外務官僚だったが、エリートと呼ばれる外交官の中には幼児的全能感を克服することができず、他者と人間的信頼関係を構築できない人が少なからずいた。

〈さまざまな能力に恵まれたエリートと呼ばれる人たちが、しばしば社会性に欠けていることが多いことも、この「去勢」の重要性を、逆説的に示しています。

つまり人間は、象徴的な意味で「去勢」されなければ、社会のシステムに参加することができないのです。

これは民族性や文化に左右されない、人間社会に共通の掟といってよいでしょう〉

「誰もが無限の可能性を秘めている」という現下日本の教育で主流になっている価値観は、一見、子どもの能力と適性を尊重するように思えるが、人間の限界を強制的に認識させる「去勢」を否認する機能を果たしていると斎藤氏は考える。

このように「去勢」を理解したうえで、学校がどのような場所であるかを考えてみましょう。そこには、明らかに二面性があります。

「平等」「多数決」「個性」が重視される「均質化」の局面と、「内申書」と「偏差値」が重視される「差異化」の局面です。

 

子どもはあらゆる意味で集団として均質化され、その均質性を前提として、差異化がなされます。均質であることを前提とした差異化は、嫉妬やいじめの温床となりますが、それはまた別の話です。

さらにまた教育システム全体が、「その中にいれば社会参加が猶予されるもの」あるいは「自己決定を遅らせるためのモラトリアム装置」として作用している点も重要です。