『在りし日の歌』より

「一人っ子政策」を描いた映画が中国の「強烈な検閲」を通った理由

検閲する役人にも感情がある

中国では劇場で公開される国内外すべての映画が検閲される。歴史修正、政治的人物の曲解、セックス、同性愛、ヌード、マスターベーション、殺人、レイプ、暴力、人種差別、極端な喫煙やアルコール、幽霊やスーパーナチュラル、世紀末や社会の闇などなどがタブーだと言われている※1

ただ厄介なのが、これら一切の表現ができないわけではなく、場合によっては許されることだ。その基準が明確でないために、中国市場をターゲットとした世界中の映画人が頭を悩ませている。

現在公開中の中国映画『在りし日の歌』は、一人っ子政策など中国のリアルを浮き彫りにした傑作であるが、本作は政治的なテーマを含んでいるにもかかわらず、厳しい検閲から逃れている。中国の映画検閲制度と映画市場を紐解きながら、その理由を探ってみたい。

 

ハリウッドの大作も検閲に引っかかってきた

中国で人気のハリウッド映画も、毎年検閲を通過できない作品がある。例えば、タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)は公開1週間前に上映がキャンセルされた。劇中で描かれるブルース・リーの人物描写や、彼が決闘で負けたシーンが侮辱的だ、というのが問題だったと噂されている※2

また、ディズニーの実写映画『プーと大人になった僕』(2018)はくまのプーさんが習近平国家主席と比較されるようになり、反政府の象徴と見られて中国での公開が認められなかったと考えられているし※3、その数年前のブラッド・ピット主演作『ワールド・ウォー Z』(2013年)もゾンビの発生地が中国だという部分と、ブラピが過去に主演した『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997)が中国のチベット軍事侵略を描いている、という理由から公開が許されなかった※4

公開はなされたものの、特定のシーンがカットされたものもある。最近では、ロックバンド「クイーン」の軌跡を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2019)が同性愛やエイズといった要素が検閲に触れ、男性同士のキスシーンや「ゲイ」という言葉が使われたシーンがカットされたという※5